重尾

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 4   ☆   ☆ 『ニエベス』のシャッターが開くのは九時。喫茶店がモーニングのサービスを始めるのも九時。重尾は例の窓辺の席に腰を下ろした。コーヒーの香りが店内を満たしている。店のシャッターが開いた。男の店員が、花の入ったバケツを店先に並べている。もうひまわりか。早いなあ。 花屋でバイトをしていた重尾は、頭の中で花束を作ってみた。ひまわりはひまわりだけの花束がいいな。 男の店員は、鉢植えや苗も並べた。花屋にしては苗ものが多い。そういえば、高橋さんが言っていた。 もうすぐこの町は「フラワーフェスティバル」が始まる。 ゴールデンウィーク明けから夏休みの間、観光地は客足が衰える。そこで、湯府市は、観光の他にもう一つの産業である花の栽培を目玉にした祭りを企画したのだ。町をあげて花を育て、あちこちに飾る。年々規模が大きくなり、古い温泉街の雰囲気とマッチして観光客が増えた。 今年は海外からの視察もあるらしいから、警備の応援要請もあったとか。 「祭りがあるときは町がざわつく。それに紛れて何かが起きるかもしれんからな。すばやく動くぞ」 高橋さんもああ言っていた。動くか。
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