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重尾は『ニエベス』に向かった。いでたちはロングTシャツにチノパン。気楽な旅行者の服装だ。
店には男の店員が一人。他には、いないな。シラユキちゃんはどうしているんだろう。
「いらっしゃい。切り花ですか」
店員は気さくな感じで声をかけてきた。アラサー、身長170センチ代後半、人のよさそうな笑顔に嘘はなさそうだ。
「あ、はい。小さい花束、作ってもらっていいですか」
「贈り物?」
「いや、自分用です」
「どの花にしましょう」
「おまかせで」
「オッケー。お兄さんシュッとしてるから、白ベースで行こう。」
そういうと、店員は迷わず白いスプレーバラと小ぶりのアジサイを選んで小さな花束を作った。
「これでどうです?」
「あ、いい感じ。いくらになります?」
「千五百円です」
そうだよな、いくら何でも五百円はない。と内心苦笑しながら、ドライフラワーの中に埋もれている監視カメラに目をやった。
シラユキが見ている。
カメラから、彼女の視線を感じる。
そんなことをするつもりはなかったけど、重尾はカメラに向かって笑ってみせた。
そうしたくてたまらなくなったからだ。
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