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5 ☆ ☆
「うわ」
シラユキは思わず声を出してしまった。なぜこっちに向かって笑うんだ。私が見てることなんて分からないはずなのに。あのカメラ、何かおかしくなってる?いや、そんなはずない。たまたまだ。
『仕事』の翌日は遅くまで寝ていることが多い。八時前に目が覚めるなんてめったにない。リュウセイだってまだ寝ている。
それなのに、起きてしまった。起きてすぐに頭に浮かんだのは『シゲ』のことだった。あの人といっしょに坂道を歩いて降りたこと、一緒にアイスクリームを食べたことが、鮮明にリプレイされた。
あの人は、また来ると言った。私が『シゲ』と呼ぶのは変だから、その時に言い呼び方を考えてくれると言った。
だから、目が覚めたら一番に、モニターの前に行った。どこかに映ってやしないかと探した。
いた。
濱井さんとしゃべっている。濱井さんに花束を作ってもらっている。
ああ、彼が濱井さんとしゃべっている。何をしゃべってるんだろう。
集音機もつければいいのに。
シラユキは、生まれ始めて濱井に腹を立てていた。濱井がいなければ、下に降りていけるのに。
重尾は、花束を作る濱井を興味深そうに見ている。濱井が手際よく花束を作っている。
シラユキはその様子を、何一つ見落とさないようにしていた。そうしたら、重尾がこちらを見たのだ。
カメラ越しに、シラユキを見て、笑ったのだ。
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