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シラユキがおろおろしていると、彼が後ろからのぞき込んできた。
「一回水の中で茎を切った方がいいよ。そのはさみ、借りていい?」
「ど、どうぞ」
彼は水を張ったバケツの中で茎を切り落とした。
「だいたいこういうところに置いてるんだよなあ」
といいながらラッピング用の紙やリボンを探し出して、勝手に使って、器用に花束を作った。
「ほらできた。俺、昔花屋でバイトしてたから」
「そ、そうなんですか」
「うん。きつかったけど、楽しいバイトだったなあ。・・じゃ、これをください」
「はい、どうぞ」
「いやいや、どうぞじゃなくて、売らないと」
「え・・・売る・・・売る?」
「そうだよ。これ、いくら払えばいいか教えてくれないと」
「えっと・・・五百円」
「え、うそ、それヤバいよ安すぎる。きみバイトでしょ、店長さんに怒られるよ」
そうなんだろうか。シラユキは現金で買い物をした経験が、実はあまりなかった。ものの適正な値段も知らない。でもこうなったら仕方がない。
「大丈夫です!」
「ほんとに?じゃ払うけど、後で怒られたらごめん」
彼は財布から500円玉を出してシラユキに手渡した。シラユキはそれをぎゅっと握りしめた。
「こんなに安いんだったらまた来てもいいかな」
「ほんとですか」
思わず大きな声が出た。声のボリュームが変だったんだろう。彼はおかしそうに笑った。
「うん。絶対来る。しばらくここに滞在する予定だから。また来るよ」
そう言って、店を出て、なだらかな坂道を降り始めた。
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