リュウセイ

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リュウセイ

  1   ☆   ☆ 「恋か・・」 モニターの前でリュウセイはつぶやいた。あんな顔をするんだな。いちいち打ちのめされる。俺には見せたことのない顔が、次々と現れてははじけていく。 リュウセイが初めてシラユキにあったのは、七年ほど前、繁華街の奥にあるホテル街でだった。すでにリュウセイは高校を中退していた。家族とは音信不通。リュウセイがもめ事を起こしてしばらく行方をくらましている間に家はもぬけの殻になっていた。同級生と駆け落ちをして高校を辞めるような息子を持て余していたのだろう。 そんなに俺のことが無理だったのか、とちょっと笑えてしまった。自分の状況を俯瞰して笑ってしまうところがリュウセイにはあった。たぶんそういうのが不気味だったんだろうな、と後になって思う。学校に呼び出されたり警察に迎えに来てもらったり、おろおろとしている親の様子を見て、なんだかおかしくなって笑ってしまう。 自分のことなのに、自分ではないように感じる。ふわふわと心が抜け出すような感覚にしたがって生きているうちにこんなところに流れ着いてしまった。 あの日も、ホテルで男と寝ているはずのガールフレンドを探していた。そのとき住まわせてもらっていた子だった。彼女がキャバと売春で金を稼いていることは知っていた。売春のことはリュウセイには言わなかったが、うわさやスマホの履歴で何となくわかった。 このホテル街のどこかにいるはずだ。どうしようという目論見があったわけでもない。ただ、耐えがたかった。
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