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ギョッとした顔で女が振り向いた。同時にリュウセイも、背後に人の気配を感じた。あの、途中で離れた男だ。こいつが元締めなんだろう。背後から、暴力の気配をまとって近づいてくる。
「待って。ここじゃまずい」
女はそう言うと、いきなりリュウセイにキスをした。リュウセイの口の中に、何かぬるっとしたものが舌で押し込まれた。今まで味わったことのない刺激が、口の粘膜から体内に広がっていく。
「ここを離れて。大通りに出るのよ」
女が、優しい声で言う。耳の奥にねっとりと残る。リュウセイはぶるぶると首を振った、
「は? なんでお前が命令すんの?」
女が驚いた顔をした。
「あなた、効かないの?」
その時、さっき、女たちと一緒にホテルに入ったサラリーマン風の男が、ふらふらと出てきた。何かブツブツとつぶやきながら、近づいてくる。酔っぱらったようなうっとりした表情を浮かべていた。気持ち悪いな。リュウセイは思わず叫んだ。
「こっち来るなよ。近づくな」
すると男の表情が一変した。空洞みたいな表情のない目をして、くるりと踵を返すと、迷いのない感じで歩み去っていった。
何なんだ?
女が言った。
「効いたわね」
「そのようだ。驚いたな。」
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