リュウセイ

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それからリュウセイはシラユキと女、奇妙な男と行動を共にするようになった。まだ『ニエベス』と言う拠点はできておらず、さまざまな場所を転居した。 男と女は言葉のイントネーションが少しおかしかった。それでも二人は頑なに日本語を使った。言葉が通じないと、あたしは商売にならないからね、と女は言った。 女はマドレと名乗った。彼らの国の言葉で「おかあさん」なのだという。若さは失われつつあったが十分に美しい女だった。 「あんたたちはどこから来たんだ?」 「イスラ・コン・ティキよ。きれいな島。でももう燃えちゃったわ」 「ふーん」 聞いたこともない国の名前だった。 「知らないの? 」 「知らん」 「そう。そんなものよね・・・」 マドレは悲しげにつぶやいた。リュウセイはスマホで『イスラ・コン・ティキ』を調べた。 イスラ・コン・ティキ 南アメリカ大陸の沖合に浮かぶ島国。主な住人はインディヘナと呼ばれる先住民。南米某国が手を引いたと思われるクーデターにより住民の半数は虐殺。多くの難民を生んだ。現代は新政権により『イスラ・ヌエボ』と改名。旧政権の支持者たちは亡命先などで新政権に正当性を認めないよう活動している。
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