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「あら、調べてくれたのね」
マドレがスマホを覗き込んで微笑んだ。
「なんか大変だったんだな」
「ふふふ。そうよ。あたしも燃やされかかったわ。だからシラユキとあの子のお兄ちゃんを連れて、一生懸命ここに逃げてきたの」
「なんで日本に?」
「たまたま乗った船が日本行きだったの。でもよかったわ。ほら、見た目が似てるから、目立たなかった。おかげで商売もやりやすい」
マドレは売春婦だった。あの大男はボディガードをしながら同郷の仲間を探して組織づくりをしていた。今では「ボス」と名乗って、部下も増えているようだ
「シラユキも、売春婦にするのか」
さりげなく聞いたつもりだったが、リュウセイの声は震えてしまっていた。
「しないわ。ぜったいにさせない。そのために訓練をしているのよ」
マドレは、窓の外に目をやった。古びたアパートの一室に二人はいた。ボスからは、組織の中で若干のもめごとが起きたので、早晩引き払うと言われていた。西日がボロボロの畳を焼き尽くすように照らしていた。
「マドレ!」
アパートの駐車場で遊んでいたシラユキがマドレに気が付いて手を振った。
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