リュウセイ

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マドレの故郷にはスノウホワイトと呼ばれる白い花が自生している。つるバラのように低い地面から石垣の上にまでつるを伸ばし、初夏にはまるで雪が降り積もったような見事な花盛りを迎える。花からはほのかな毒気が発せられ、人は酔いしれる。誰かを愛したい。そんな気持ちが島に満ちる。女の子たちは花びらを口に含んで思いを寄せている男の子にキスをする。するとその男の子は、彼女が最初に発した命令を聞かなければならない。そんな他愛のない遊びが、島のあちこちで見られていた。 スノウホワイトは、愛の花だ。ささやかな愛をはぐくんでいく。 だが、スノウホワイトの毒を特別に抽出する技術が、イスラ・コン・ティキにはあった。 「私は特別な娼婦だったのよ」 イスラ・コン・ティキの産業は農業と観光だ。古代文明の石造りの上に独特な木造の建物が並ぶ様子はファンタジーの世界のようだ。その裏にもう一つ、南米有数の歓楽街があった。えりすぐりの女性たちとの楽しみを求めて、世界から男たちが集まるのだ。洗練されて、母国語の他に英語も流ちょうに話す美しい女たちに世界の金持ちは夢中になった。表向きそれと分からない楽しみの扉が開いていたのだ。 その花街にはさらに裏の顔があった。女の体に塗った香料、口に含んだ酒、そこから男の中にしみこんでいくスノウホワイトの毒。
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