リュウセイ

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特別な娼婦は、不法移民の売春婦となった。語学力が高かったがマドレはあっという間に日本語を習得したが、後ろ盾のない異国の地で体を売ることは生死にかかわる危険な仕事だった。しかしマドレは生き抜かなければならなかった。イスラ・コン・ティキから連れてきたシラユキと、その兄を守らなければならなかったから。シラユキは当時1歳にもならない幼児。兄はおそらく十歳くらいだろうか。貧民街に生まれた二人は、アルコール依存症の母親の元で、出生の届もだされないもままに育っていた。 焼き払われた町で赤ん坊を抱きしめて立ちすくんでいたシラユキの兄を、マドレが手を引いて、船に乗せた。それ以来マドレはずっと二人のマドレ、母親になっていたのだ。もっとも兄のほうは早々にマドレの手から離れた。 マドレはリュウセイにさみしそうに語った。 「あの子は、すごく頭がいいんだって。ボスが見抜いたの。この子は俺に育てさせろ、必ず組織の役に立つっていうから。預けたの」 しかし安全に商売をするためにはボスの庇護がかかせない。しかも、ボスは島からスノウホワイトの種を持ち出した男を見つけ出していた。それを抽出する技術を持った者も。 「うまく抽出できれば、いちいち体を交えなくてもよくなるかもしれん」 その言葉を聞き、マドレは兄を手放した。
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