栞と金貨

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あれは、わたしが5歳のとき。あのころもこの街に住んでいた。うちの父は営業職で、それこそ1年単位で転勤になっていた。そのとき、一番の仲良しだったのがあきらくんという男の子。ちょっとやんちゃで、生傷が絶えないような子だった。でも、優しくていじめっ子からいつも守ってくれてた。 引っ越しが決まった日。その日はママとあきらくんママと一緒に公園に来ていた。11月で紅葉がキレイだった。ママが、あきらくんにそのことを伝えると、 「いやだ、いやだい。ともちゃんとけっこんするんだい」 泣きじゃくった。わたしも涙が止まらなかった。あきらくんに、なにかあげたい。今度会った時に目印になるように。 1か月後の12月初め、わたしはあの栞をあきらくんに渡した。 「ともちゃん、ありがとう。どうしても行っちゃうんだね」 目にいっぱい涙をためて、でも流れないように必死にこらえているようだった。 ちゅっ。 頬にキスをくれた。あきらくんもわたしも、モミジのように真っ赤っかに染まっていた。 「これ・・・やるよ」 きらきらの、おもちゃの金貨だった。いくら、ちょうだい、とねだってもくれなかった金貨。 「いいの?」 「こんやくのしな、だからな、たいせつにしろよ」 「こんやくって・・・?」 「かえって、ママにきけ。たいせつにしろよ」 「うん。げんきでね、あきらくん」 「おおきくなったら、ぜったいまた、あうからな」 「うん」 わたしは、ついにがまんできなくなってわんわん泣いたのだった。 ・・・あの金貨、どこに行ったろう。見つけなければ。
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