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戸惑うべきは俺だろう。
けど、今は俺より結城さんの方が
より混乱しているように見えた。
「柏木の男だとわかってるから手を出すつもりもなかった。
けどお前の一々がクソ可愛い、そう認めざるを得なくなってくると、その口がやたら『柏木柏木』って言うのが耳障りんなって」
「本当に止めて下ざい。
そういうの、傷つぐんでず、俺」
腕を振り抜こうとする俺。
そんなことにびくともしない結城さんは、横向く俺の顎を掴んで戻し、僅かに揺すった。
「姿形だけじゃなくて、仕草や言動の全部が可愛いつってんだよ」
「セ、、、セクハラだっ、問題発言だっ」
「俺の正直な気持ちを口にすれば、
それはお前にとって問題発言になるのか?」
力を込めて引かれる手首に俺は顔をしかめた。
「いだい、、、結城さん、手離して、
痛い」
ようやく緩められた手から逃れた俺は
テーブルにあるプルコギピザを掴むと、距離を取って結城さんの顔にベシッと投げつけ、そのまま後ろ足でドアに寄った。
「俺、けっ警察に行きます。
そこでみなつきさんの世話になる。
柏木さんが帰るまで」
言ってガチャガチャとノブを動かしたものの、ドアはロックされてて開かない。
「待てよ」
結城さんは大きな溜め息をつきながら勢い良く俺に迫ると、
バンッ、、、と両手をドアに叩きつけた。
「ひぃっ」
乱暴に戻されるか殴られでもするのかと身を縮めた俺に、囲った腕の中で額同士をくっつけてくる。
「ゆ、ゆゆうき、、、さ、ん」
「悪い、、、血迷った」
暫しの沈黙が俺と結城さんに重くのしかかる。
「い、いいんです。
みなつきさんとこ行けばこれ以上結城さんに迷惑かけることもないですし。
いまのこと、忘れます。
あの、だからここ、開けて下さい」
「、、、、」
「あ、、あけ、開けて下さい」
「、、、フロントに電話するから待ってろ。
警察には俺が連れていく」
結城さんは勢いをつけて自らを剥がすように俺から離れた。
そして顔に着いたタレや海苔に気づくと、それらを手探りで取って自嘲気味に笑い、
「毎日毎日お前の事で頭がいっぱいだ。
こんな状態で諦めることはできない。
この事件が解決したら、改めてチャンスをくれ。
俺のお前に対する感情が問題だと言う前に、お前は柏木抜きで俺に向き合え。
俺の全てを見て、ちゃんと考えてから答えを出せよ」
と静かに言って洗面所に消えた。
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