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どうしょうかな、、、
スマホを手にしたまま、出るか出ないか迷っているうちに音が鳴り止んだ。
俺に好意を寄せてくれている大変大人な男性『柏木さん』。
知り合ったきっかけは、柏木さんが常連のオーセンティックバーに俺がバイトで入ったことから。
年齢が十歳近く離れているからか、落ち着いた物腰が俺から見れば知性と懐の深さを醸し出していて好感が持てる。
立場的には製薬会社の偉い人みたいだけど、そんな素振りを微塵も見せないところもいい。
とはいえ、少し前に俺に告白して以降は突然情熱的に抱きしめたり、不意にキスをしたりしてくる意外な一面も持っていて、、、
女子に性的興味を持たない俺からすれば、柏木さんはそういう意味で魅力的な男性で、恋愛の対象にはなりうる。
柏木さんも本能的直感で俺に対し手応えを感じているようだ。
そんな相手が、この時間俺に連絡をしてくるってことは、食事かなんかに誘ってくれるのかも、、、。
折り返すか。
いや、折り返した所で誘いに乗れるのか? 俺は。
「誰からだ?」
保護者代わりの家主、亮介さんが睨みをきかせて俺を見た。
「柏木さん」
「ああ柏木さんか。
なら今から来てもらえよ、俺が一緒に一杯やりたがってるって伝えてくれ」
そう。
柏木さんは監督者である亮介さんにも抜かりなく挨拶を済ませ、立場と目的を明かしているから、今ではすっかり信用されている。
「いや、、、いい」
俺はスマホの画面を見つめた後、再びキャビネットの上に置いた。
今度はユキさんが箸を動かしながら、不思議そうに訊く。
「汰くん、彼のこと好きなんだろ?」
「、、、うん。
あっ、いや、そんなんじゃ、、、」
瞬間、かぁっと顔に血がのぼるのがわかった。
「違うのか?」
「そりゃぁ、、、。
ユキさんや亮介さんと同じで、同性に惹かれる俺としては柏木さんから示される想いは嬉しいよ?
嬉しいけど、告白されて即『あ、そうですか、じゃぁ僕も』なんて応じるわけにはいかないじゃないか」
「なんで」
ユキさんは急に声を落として咎めるように訊いた。
「昔から周りに男女みたいでキモいとか、あざといとか言われてきたんだよ?
背だって低いし男らしい要素いっこもないし。
女子っぽいって言われる割にはユキさんみたいな妖艶さや、京都独特の雅やかな雰囲気も持ってない。
どこをどう好かれたのかわかんないもん」
「あっはははは、、、可笑しいなぁ。
もっと自信持たはったらええのに〜。
汰くんは自称都会の男やろ?
言うても僕なんか田舎もんやし〜」
んっとに、、、。
俺が、ちょっと亮介さんに甘えたってだけで、うっすら且つ、ずーっと感じ悪いんだから。
「別に。自信がないわけじゃないよ」
本当はないけど。
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