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「僕には汰くん、柏木さんに気が無いようには思えないんだけど?」
ユキさんの言葉に亮介さんが顔を上げて俺を見た。
「そうなのか?」
「そ、それはまだ未確定だよ。
やめてよユキさん、そういうこと言うの。
頭が混乱するから」
俺は誤魔化すように首を振って椅子に戻り箸を取った。
「そうか〜?
なら余計なこと言ったね」
「汰、後で折り返しだけはしとけよ」
「あ、うん。そうする、、、」
気持ちを切り替えて目の前の鍋を覗き込むと、うどんと野菜の残り屑だけがくつくつと煮込まれていた。
「、、、あれ?
ああっ! 肉がない!
肉!
俺の肉がっ!
ひっ、ひどいじゃないかっ、二人ともっ!」
あまりのことに思わず立ち上がって叫んだ。
「あれ? 汰くん肉食べてないの?
山ほどあったのに」
目も合わさずに、しれっと言ったユキさんは亮介さんにシメのうどんを取り分けていた。
「食べてないよっ!
俺はひとっっっくちも食べてないっ!」
地団駄踏んで怒鳴っても二人は動じない。
「座れ。
静かに食えって何度言ったらわかるんだ」
「野菜と うどんは残ってるから、汰くん」
「今夜はすき焼きだろっ?
肉だよっっ、俺は肉が食いたかったんだ!」
「『わりした、わりした』って騒いで、
携帯なんか触ってるからだよ」
「ユキさんが冷蔵庫にありもしないうどんを探せって言ったからじゃないかっっ!」
悔しくてじんわり涙が溢れた。
「ガキか」
亮介さんが呟く。
「ああっ、人権無視の問題発言っ!」
「元気があってええなぁ。
うどん食べて外でも走って来たらどうや?」
ひ、酷すぎる、、、
「う、ぅ、、、、うわーぁぁぁっ!」
俺はまさしくガキのように泣きながら
自分の部屋に飛び込んだ。
たかがすき焼き、
されどすき焼き、
食べ損ねた松阪牛。
「ユキさんのいけず野郎っ!
わぁぁーっ! 俺の肉ーっっ!」
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