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「食ってる時に喋んな、飯粒が飛んでくる。
それに俺は『みなづき』だっつってんだろ、いい加減覚えろポンコツ」
それだけ言って黙々と食べる水無月さんを尻目に、
「次何食おっかな~、、、あっこれにしよ」
単品メニューにある『炙りカルビ』に目を留め、
「すいまっせーん、すいませーんっ!
『あるびカルビ』くださーいっ」
首を伸ばして叫んだ。
時は十二時。
満席の狭い店内では熾烈なオーダー合戦が繰り広げられている。
目の前で箸を持ったままこっちを凝視し
固まってる水無月さんに『そうだ!』と、
「二人前にして、みなつきさんも食べましょうよ! 腹一杯なら俺が代わりに食いますから、ね? ね!」
わくわくしながら俺は身体を揺すった。
「す、い、ま、せーんっっ
『炙りカブリ』っ、二、人、前、くださーいっっ」
手を上げて声を張る俺を見て
両隣のテーブルに座っていた客らが笑い、
「俺が頼んでやるから、お前は黙れ」
水無月さんはメニューの先で俺の口を押さえた。
「オヤジ! 炙りカルビ二人前!」
地響きのような水無月さんの声は、すぐに店主の耳に届き、
「はいよーっ、炙り二人前!」
オーダーが通った。
「ちょっとーっ、なにするんですか?」
メニューをどかして文句をいう俺に、
水無月さんは顔を反らし、
「いや、、、」
口元を少し歪め、思案するように眼を細めた。
そして少しの間をあけて、折った指を顎先に充てながら、
「おい」
「はい?」
「聴取率調書捜査中って言ってみろ」
「は?」
「聴取率調書捜査中、、、って。
言ってみろ」
二度命令した。
「なんですか? その、
ちょうしゅりちゅ、、、ちょう、ちょうしゅじちゅ、ちょうそ、、、」
その時、
崩壊していた表情筋が盛り上がり、大波が岩場にぶつかるがごとく、
「ぶぁっははははーっ、、、」
水無月さんが笑った。
「あの、みなつ、、、」
「わーははははっ、、、」
楽しそうに仰向いて、
俺の前で初めて、、、
水無月さんが大笑いをした。
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