僕らはみんな生きている

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「参加するとは申しましたが、(わたくし)は水に流した食材など口にできません」 真面目なキリルさんは麺の投入口の直ぐ側に脚立を立てて乗り、野々山さんから麺つゆの入った器を受け取りながら、高さを合わせて置いた脇台に、別盛りの素麺と薬味、そして相変わらずのヨーグルトを並べて姿勢を正した。 その声は渡した竹の端まで聞こえたようで、タバコを消した結城さんが庭石から腰を上げながら軽く鼻を鳴らす。 「じゃ、お前は麺流す係やれよ、あとは好きにしろ」 するとマイ箸を懐から出したキリルさんも銀縁眼鏡のフレームを上げて結城さんをギロリと一睨みし応戦する。 「言われなくても完璧に致すつもりです」 そんな二人を遮るようにして、盆に麺つゆを乗せ持った野々山さんが『さあさ、始めますよ』と元気良く言った。 「先ず器と箸、それから食べる位置を決めましょう。 器は大きさがまちまち、箸は材質も異なりますので、クジやじゃんけんで決めても構いませんが、、、 今日ばかりは年の若い順と行きますか。 汰士(たいし)さん、お好きな器をどうぞ」 皆の注目が俺に集まる。 「え〜、いぃんですかぁ?」 ビジュアルだけで言えば、ほっそりしてて儚げ美人のユキさんにみんな一番を譲りたいところなんだろうけど、 「若い順だなんて、えへへ、、、 何だかすみませ〜ん。 じゃ、お言葉に甘えて〜」 俺のが4歳も年下だもんね。 盆には小鉢から丼まで大きさの違う器があり、もちろん俺は一番でっかい丼に手を出した。 ─ やった〜 並々と揺れるつゆに笑みが溢れる。 次にユキさん、結城さん、亮介さん、水無月さんに柏木さんと続き、最後に野々山さんが小さな器を持った。 「体格のええ野々山さんがそない ちっさい器やなんて申し訳ないなぁ。 あ、それやったら今度は野々山さんから好きな箸取ってもろたらどないやろ?」 「それがいい」 鷹揚なユキさんの一声に亮介さんが同意し、皆が頷いた。 「いえいえそんな。私は」 「こんなこと、一番を譲ってもろた汰くんから言い出さなあかんのに、、、。 野々山さん、かんにんえ」 でた。 ユキさんのエエカッコしい。 「あ、あは、あはは、そうだった。 どうぞどうぞ野々山さん、あ、皆さんも遠慮なくどうぞ〜。 俺は最後で」 俺だって分かってたよ、そんくらい。 「そうですか? 却ってすみません、、、。 ではせっかくのお申し出ですので、失礼して」 野々山さんは恐縮しながらも素麺には もってこいの杉でできた高級割り箸を選んだ。
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