僕らはみんな生きている

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だいたいさ、 二人暮らしで客という客が滅多にないからって、この家に箸が揃ってないのが原因だろ。 ユキさんはテイクアウト等に付けられる箸やスプーンをことごとく断るタイプなので、この日、キッチンを漁って集めたのは唯一の高級杉箸と、ラーメン屋にあるようなプラスチックの角箸、取り分け用などに使う竹箸に、珍しい韓国製のステンレスの平箸、あとは先までが丸い塗り箸がそれぞれ一膳づつだけ。 逆に一膳ずつ5種類あるってどういう現象だよ。 亮介さんとユキさんは普段自分達が使ってるものを手にし、野々山さんが杉箸を取った後は逆順で思い思いの箸を選び、最後、先端までがつるつるの丸い塗り箸が残った。 当然それは俺。 「、、、これ」 流れる麺には超絶不向きなやつ。 「ああ、そんな塗り箸では汰士(たいし)が可哀想だな、交換しよう」 光る塗り箸を見つめる俺に向かい、早々竹箸を選んだ柏木さんが目尻に笑みを従えて差し出した。 「でも」 「構わないよ、ほら」 聞いた? 柏木さんの懐の大きさ深さは、こういう所に顕れてると俺は思う。 遠慮なく竹箸を先に確保したのも、俺の為だったに違いない。 「それじゃ、、、」 「甘えてんじゃねーよ。 チビと箸は使いようって言葉があんだろ。男なら(いさぎ)くそれで食え」 手を出しかけた俺の頭を結城さんが背後からつつく。 「またっ! チビは関係ないでしょ、チビはっ。 それに男だからああしろこうしろって決めつけるのはセクハラだよっセクハラっ」 過去、俺に告白して断られた結城さん (本人はフラれたとは認識しておらず、今も返事は保留中だと思ってる)は、 柏木さんが俺に優しくする度、そして俺が柏木さんに甘える度に突っかかってくる。 そしてそんな結城さんは、残った二膳のうち、俺の直前にニヤリと笑って韓国料理用のステンレス箸を取っていた。 「うるせぇぞ、ギャーギャー騒いでねぇでさっさと位置につけ」 流し竹の末尾にどっかりと腰を据える水無月さんがプラスチックの角箸で俺を指し、一喝する。 「だって、結城さんがっ」 「汰士(たいし)」 それでも尚笑顔で竹箸を差し出す柏木さんを暫し見つめ、俺は首を振った。 「やっぱ、、、いい。 大丈夫、どんな箸だって使えるから、 俺は」 そ、 結城さんの(いじ)りなんか 竹を下る水が流し去ってくれる。 要はさ、 ()き止めてでも(すく)ってでも食やいいんだ、麺を。
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