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流し素麺で大事のは立ち位置だ。
水無月さんは最初から戦いに挑む気はないようで、最終地点にあるザルの上に器と箸を置き、瓶ビールを煽っている。
そんな水無月さんの前に亮介さんとユキさんが向かい合って箸を構え、中間あたりに野々山さんがにこにこしながら立った。
そして柏木さん、その向かいには結城さん。
もちろん俺は一番前に陣取り、
椅子を踏み台にして流し口ギリギリの位置でスタンバイする。
柏木さんはともかく、結城さんには麺の一本だって譲る気はない。
「参りますよ」
脚立に乗ったキリルさんの凛々しい声を合図に、いよいよ一口ずつの房に丸められた素麺が投下される。
麺を運ぶ水の量はかなり多く、脚立を立てなければ投下できないほどの勾配もあって流れが早い。
「よーしこい、、、、あっ」
最初の麺はあっという間に俺の塗り箸をすり抜けた。
振り向くと柏木さん結城さん、野々山さんは何故か手を出さずに見送り、亮介さんがユキさんに『ユキ取れよ』と声をかける。
『ええのん? わあっ取れたぁ。
皆さんおおきに〜』
「、、、、」
いいよ。
俺だって一発目はユキさんに譲ろうと思ってたし。
それから間髪入れず続々と流れ始める素麺。
『悪いな、お先』
『うん、旨い』
『意外と簡単なんだな』
俺の箸をすり抜けた素麺を皆が順々に取り上げては食べる。
「柏木さん、場所代わって。
俺、もう少し後ろのがいいや」
取れないのは塗り箸のせいじゃない。
キリルさんの投入する手元が板で仕切られていて見えないもんだから、タイミングが掴めないだけ。
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