僕らはみんな生きている

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「いいよ」 柏木さんに場所を交換してもらったものの、今度は結城さんのステンレス箸と俺の箸がぶつかる。 「結城さん箸どけて下さい、俺のが早かったんだから」 邪魔な結城箸を俺箸で押し、少し倒す。 「いいのか〜? せっかく止めてやってんのに」 スッと結城箸が退かされた途端、俺の箸の間にあった素麺は消えた。 「ああっ」 「で、取れないのかよ?」 口の端を上げる結城さん。 「失礼しますね、汰士(たいし)さん」 逃した麺は野々山さんが掬い上げて口にした。 カシッ カシッ その後も必ず結城箸とぶつかり、阻止するも横取りされるか逃すかしてしまう。 「もう〜結城さんっ、わざと同じ塊 狙うの止めて下さいって」 「偶然だよ、偶然。 けどさ、譲ったところで掴めてないじゃん、お前」 「、、、っっ」 くそ〜っ。 いや、こんな結城さんの前に立った俺が悪い。 「いいよ、俺野々山さんの後ろに行くからっ」 そう言って移動するも健啖家(けんたんか)、つまり大食いの野々山さんの後ろではやや不利で、しかも、 「いややなぁ(たい)くん。 頼むから肘張らんといて」 両利きのユキさんがわざわざ左手に箸を持ち、肘に肘をぶつけて文句を言ってくる。 「ユキさん普段は右手使ってるじゃないか、そっちこそいけず(・・・)しないでよ」 押し合いをしてる間にも素麺は肘鉄を食らわしてくるユキさんに、そうでなかったら亮介さんに持ってかれる。 「落ち着かないな。 汰士(たいし)、こっちのがいいんじゃないか?」 亮介さんが少し場所を空けてくれたので、俺は竹の下を潜り、反対側へ行って亮介さんと水無月さんの間に割って入った。 だけど、、、 末尾の手前まで下りるとさすがに素麺は前の5人に食われてしまって、ほぼほぼ俺には回って来ない。 来たとしても麺の一本とか二本とかで、けど、それすら掴めてないし。 「なんだよ、、、。 なんだよ、みんな」 塗り箸が悪いんじゃない。 俺の箸遣いが悪いんじゃない。 「最後の一流しですよ」 休む間もなく流し続けるキリルさんが悪い。 わざと構ってくる結城さんが悪い。 大食いの野々山さんもいけず(・・・)のユキさんも、それを注意しない亮介さんも悪い。 そして、 「手、出すなよ。 最後の一口くらい食わせろ」 散々ビール煽ってたくせに、残りの一塊が流れて来た途端俺の腕を押さえ、威嚇してまで奪ってく水無月さんが悪い。
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