僕らはみんな生きている

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「いいよ、、、もう。もういい」 俺は手に持っていた丼から少しだけ汁を飲み、足元に置いて箸を乗せた。 コロリと転がり落ちる箸は涙で霞む。 泣くほどの事じゃない。 そうだろ? 美味しいはずの時間が腹ペコのまま過ぎただけだ。 ─── 「汰士(たいし)おいで」 虚しく水だけが流れる竹を見つめる俺の背後から柏木さんが声をかけ手首を取った。 照りつける陽を避け、黙ったまま広々とした庭の隅に立っている木の下に連れ立つと、身体を屈め、覗き込むようにして俺に目を合わせ訊いてくる。 「拗ねてるのか?」 「べっ、別に拗ねてなんか、、、」 鼻をすすりついでにTシャツの裾で目を擦って目を瞬かせた。 クリアになった視界で改めて柏木さんを見返すと、穏やかで笹葉のような目が深い色で俺を見つめている。 「やっぱ、、、拗ねてるかも」 柏木さんには正直でいたい。 意地だって張りたくなかった。 「『俺は悪くない、周りが悪い』そう思ってる」 「ぅ、、、ん」 さっきまで庭にいた面々も、今は灼熱の陽から逃れるように縁側に集まって雑談をしていた。 「嫌がらせを受けたと感じるのは当たり前の状況だったよな。 僕は助けの手も出さなかったし。 怒るのも無理ない、拗ねるのも分かる。 ただ、、、」 こういうときの柏木さんは本当に優しい顔をする。 「拗ねた心は行く先がないだろ? それでは可哀想だ。 せめて居場所を作ってやって欲しい」 「居場所、、、って、拗ねた心の?」 「そう。それも君そのものだから。 まず考えて、 あそこにいる人たちが汰士(たいし)と同じ立場だったらどうしていたと思うか? つまり、麺を取るには不向きな箸を持つことになって、うまく使うこともできず、また意地の悪い行為で一口も食べられなかったとしたら、彼らはそれぞれどうしていただろう」 「どう、、、って」
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