僕らはみんな生きている

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それを聞いた俺の目は何となくキリルさんに留まった。 「キリルさんはどこへ行くにもマイ箸持参、そもそも人を寄せつけないから意地悪なんてされないんだよ」 「あははは、、、だよな。 彼は万に一つのリスクも取らずに生きてるからな。 楽しくはないだろうが、嫌な思いもしない。 じゃ、その横にいる結城はどうだ?」 視線をずらすと、キリルさんの横では顔を上げぎみの結城さんが、飽きもせずキリルさんに向かって喧嘩を仕掛けてる様子だった。 「結城さんは食べたきゃ手掴みしたって食べるだろうな。 人の迷惑なんて考えないんですもん。 意地悪なんかとても。 何かしようもんなら倍返しで復讐してくる」 そして視線は忙しなく動き回る野々山さんに移る。 「野々山さんは自分のことは自分で どうにかするタイプだから、木の枝とかででも使い易い箸作っちゃいそう。 邪魔されて食べられなかったら、追加で大量のそうめん茹でるよ、きっと。 一人でも流しそうめん楽しむこともできる。 亮介さんは全く別の食事提案して自分も周りの気持ちも切り替えられる人。 苦労とか手間とか厭わないから、この後もバーベキューとか始めちゃうと思う」 ここまで言うと、俺には柏木さんが何を伝えたいのかが何となくわかってきた。 夏の太陽がてっぺんから傾き始めている。 むせ返るような午後の熱気の中で、一人涼しい顔をしてるユキさんを見て俺はフッと笑った。 「ユキさんはさ、根っからの文化気質だと思わない? 『流しそうめんは遊びとおなし。 食べるが目的やない、風流を楽しむもんや』 って言い切ってたもん。 自分がいけず(・・・)するだけに、されるのもにも慣れてるから、普通にスルーだし」 柏木さんは俺の言うことに一々うんうんと頷いていたけど、 「表情筋崩壊のみなつきさんだけは論外にして。 俺には正直『柏木さんが誘うからしゃーなし(・・・・・)飲みに来てやった』ってことしか分からない。 その割には『可能なら』って程度で頼んだスイカをきっちり買って来るし。 ほんと、未だに俺はあの人の何もかもがわかんないまま」 という締めのセリフには大笑いして 『全くだ』と同意した。
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