46人が本棚に入れています
本棚に追加
───
「汰士さん、一口も食べられなかったのですか?」
潤目で柏木さんに連れられてった俺をキリルさんは気にしていてくれたようだ。
「あんなにウロウロして一口も、とは。
、、、しょうがないですね。
私の麺を譲りますから、もう一度丼を持って流し竹の脇へ立って。
皆さん、これは汰士さんの分ですから手を出さないで下さい」
すかさず柏木さんが、
「流れが遅くなるように少し水量を絞って来よう」
と散水栓に向かった。
結城さんは笑いながら芝の上に置いたままの丼を取り上げ、『ほい』と俺の手に持たせる。
「良かったな、甘ったれ」
「今度は確実に取れるよう、この杉箸をお使いなさい」
野々山さんが笑いを噛みしめつつも、自分の使ってた箸を竹に流れる水で洗い、渡してくれた。
「竹節の前で止めるのがベストだぞ」
と亮介さんが言えば、
「こんなこともあるかと思て、汰くんの好きな豚の冷しゃぶ、ぎょうさん茹でて冷やしてある。
持って来よか?」
ユキさんが苦笑しながらその場を離れた。
「みんな、、、」
俺は気付かなかった。
拗ねて周りに気を遣わせるのは、イジリやいけずをされるより、よっぽどプライドが疼くってことに。
「すいません、キリルさん。
結城さんに野々山さん。
亮介さんと、それにユキさんも。
食べ物のことくらいで、、、」
言ってから急に恥ずかしさを覚えた俺は、柏木さんを盗み見た。
けど柏木さんは『いいんだよ、甘えても』と言いたげに首を振り、微笑みながら
ゆっくり目を閉じた。
「じ、じゃあ、キリルさんの食べる。
冷しゃぶも。
お、お言葉に、甘えて、、、」
俺はこのままでもいいんだ。
「こっちにも残ってるぞ、
、、、多少混ざり物もあるが、食いたきゃ食え」
流れついた先のザルん中にある、数本の麺とネギのカケラを水無月さんがわざわざ突き出してくるんだから、
「それだけは嫌ですよっ、いくらなんでもっ」
俺だって自由に言いたい事を言う。
そう。
互いに信頼を持ち寄って性格を認め合えるのなら、誰もが自分でいていいんだ ───
最初のコメントを投稿しよう!