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好き焼きもち
「出張?」
腕捲りをしたユキさんがテーブルの上に
すき焼き用の肉を広げた所で眉間を寄せて訊いた。
「ああ。
大学院時代に世話になった薬学の教授から病理解剖に立ち会ってくれないかって依頼があってさ」
───
ここは俺の兄貴の親友、東野 亮介さんの家。
高価な松坂牛の肉を広げているのは超美形のユキさん。
彼は整形外科医の亮介さんと恋人関係にあって、名前を西野 征理という。
つまり二人は同性同士のパートナー関係にある。
言うのが遅れたけど、俺はその二人の愛の巣に居候させてもらってる大学一年生で、名前は中野 汰士。(居候とは言うものの実際は邪魔者以外の何者でもない)
そりゃあね、
俺だって二人の愛の巣に転がり込むのは悪いと思ったよ?
だけど、亮介さんの方から『大学に近いんだし部屋も空いているから好きに使え』
って誘ってくれたんだもん、人の好意には素直に甘えないとさ。
亮介さんは東京生まれの東京育ち。
ユキさんは関西出身としか教えてくれてないけど高い確率で『京都』の人。
俺はと言えば元々東京に実家があったけど、親父の都合で今は神奈川に移ってる。
チビで童顔で実際の年齢に見られたことのない平々凡々な顔の俺に対し、同じ童顔小柄でもユキさんはモデル級の中性的美人で年齢は驚きの二十二歳。
職業は書家。
色白でウェーブのかかった肩までの髪をいつも片側だけ耳にかけ、尻上がりの口調と優雅な所作に高貴な血筋を感じさせている。
「そうか、、、」
この、やや沈んだ『そうか』のイントネーションも語尾がふわっと上がっていて独特だ。
とにかく一途も一途の尽くし型で、
亮介さんの世話を焼くことが生き甲斐の糟糠の妻って感じ。
ここからは俺の勝手な偏見だけど、靴下からパンツの脱ぎ着にまで手を出したいタイプなんじゃないかな。
今夜のメニューも亮介さんの一言で
『すき焼き』に即決まりだし。
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