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「だってだって野菜も入れてないし」
「それは肉を食ってから」
ユキさんの手は次から次へと肉と鍋を往復し、てきぱきと砂糖と醤油で味付けを足しては、亮介さんと自分の皿に肉を乗せていく。
「すき焼きってのはさ、、、最初に出汁と醤油と酒と味醂とでグツグツ、、、」
「それはすき焼きと違う」
「うわっ、出た出た、
ユキさんの東京食文化否定発言!
偏見だ偏見!」
「汰、言い過ぎだぞ」
「だって、、、っ」
俺がこうした抗議をするには理由がある。
居候を始めて間もなくのこと、
俺はユキさんのリクエストに応えてたぬきうどんを作ってあげたことがあった。
けど、出来上がりの丼を覗き込んだユキさんは綺麗な顔を思いっきり顰めて、
『これは天かすやないか。
たぬきは短冊に切った油揚げのあんかけうどんのことだ』と、俺がたっぷり乗せた揚げ玉タヌキを完全否定したんだ。
それだけじゃない。
濃口醤油で作った『おでん』のことを『真っ黒な関東炊き』とか言ったりしてさ。
「偏見なんて言ったのは悪かったよ。
別に俺はユキさんに文句があるわけじゃなくて、、、」
「次は汰君お待ちかねの野菜だよ」
「待ってるのは野菜じゃないよ。
俺は肉が、、、あっ、ない!」
「野菜の後にまた焼くから」
ユキさんは鍋に残った肉汁に再度砂糖と醤油と酒を足して野菜を煮始めた。
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