ガード下の焼肉店にて

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ガード下の焼肉店にて

「どうだ」 「はひ! めちゃくひゃおいひいです!」 も〜なんだかんだ言って肉は最高! ブランド牛でなくても料理の仕方と味付次第で激ウマってのは一理あるな、うん。 おまけに腹が減ってるから尚更だし。 ─── 今、俺は頭上をひっきりなしに電車が走るガード下の小さな焼肉店で、白飯と共に甘辛いタレに絡み付く、香ばし〜い焼き肉を『刑事の水無月さん』と堪能している。   互いの関係をイチから話せば長くなるから端折(はしょ)るけど、この人は俺に恋愛感情を寄せてくれてる『柏木さん』て男性の無二の親友(・・)なわけ。 だから大事な親友がどこの馬の骨ともわからないガキ(つまり俺のこと)に騙されてるとか何とか難癖つけて言いがかりをつけては刑事の鼻を利かせて俺のことを嗅ぎ回っているようで。 けどさ、柏木さんから想いを寄せられてるのは今のところ俺なわけで、こっちから告ったわけではないんだけど。 水無月さんは問題発言てんこ盛りにして冷徹非情、穏やかで紳士な柏木さんの親友とは思えないほど食えない人。 顔つきからしてコンプラとか人道なんてものは踏み散らかしてんだろうことが伺える。 そんな『反社会的刑事』と仲良く飯を伴にする気なんて、もちろん俺にはさらさらなかったんだけど、突然、しかも半ば強引に誘われて今日初めて一緒にランチする事になってしまったんだ。 ま、水無月さんにとっては昼飯にこじつけた偵察なんだろうけどさ。 超絶(・・)気まずい相手と好物の肉を食うのは不本意中の不本意だとしてもだ、俺だって柏木さんのことは気になるわけで、てことは水無月さんとも今後全くの無縁でもいられない。 大人な俺は自身にかけられた嫌疑(・・)を晴らすべく、これを機にコミュニケーションでも取ってみようかとも思うわけ。 だけど。 何しろこの水無月さんには表情ってもんがない。 何を考えてるか全くもって分からないし、俺を見る目はほぼ犯罪者に向けるそれと同じ。 人が持つ温度ってものが感じられない 『歩く岩』。 多分人生のどこかで『表情筋』てやつを崩壊させちゃったか、落っことしてきたに違いない。 でもまあそれはそれ。 この焼肉店に入った途端、無法刑事の表情筋なんてどうでも良くなっちゃったし。 まず想像してみて欲しい。 煤けたダクトから もうもうと排出されてく煙りから(はぐ)れ、店中に残された芳しい匂い。 浮遊する脂のせいか滑りの良い古臭い引き戸にはシミだらけの手書きメニューが貼り付いている。 鉄パイプとビニールでできた椅子、 ラッカー塗装が剥げた年代物のガタつくテーブル、 そして何をも差し置いて満杯の客。 そう。 この焼肉屋は絶対旨い(・・・・)店の条件が全て揃っている。
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