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スピードトライアル
『エンジェル、山本一尉。CCPだ。最高速試験に入ってくれ』
HMDSのスピーカーから横田基地に在るCCPの声が響く。
HMDSには、高度四万一千フィート、速度マッハ〇.九と表示されている。私は安曇重工が試作したこのF3戦闘機を使った太平洋上での最高速度試験に臨もうとしていた。
F2戦闘機の退役が近づく中、日本は次期支援戦闘機F3を国産で開発する決断をした。そして安曇重工の案が採用され、現在、試作された五機を使った評価が行われている。F3は空母やヘリポートでも使用可能な垂直離着陸機能を有し、最高速度はマッハ三。ステルス性能も世界最高水準であり、実戦配備されれば世界一の戦闘機となる筈だ。
その性能のうち、マッハ三という最高速度は現役の戦闘機では最速、歴代でも既に引退した米空軍のSR71のマッハ三.三に続くもので、この速度は広大なEEZを有する日本にとって大きな武器になる。
「こちらエンジェル。了解しました」
無線にそう答えると左手の推力レバーを巡行出力から推力増強出力に押し込んだ。『ガン』という音と共に私の身体に強烈なGが入力される。
そのままマッハ 二.五まで三十秒程で加速出来た。しかし、ここからがF3の真骨頂だ。私は推力レバーを更に前方へ押し込みRJ(ラムジェット)モードに入れた。これにより超音速で圧縮された空気がタービンを通らずに直接燃焼室に流れ込み、高いエネルギー効率で大きな推力を獲得できる。このターボファンジェットとラムジェットの複合エンジンの搭載が、F3の国産開発を大きく後押しした。
「マッハ 二.八、二.九、そしてマッハ三! 設計最高速度達成!」
CCPで大きな拍手が上がるのが聴こえて来る。
大きな喜びに包まれた私の眼前には成層圏から見える綺麗な太平洋の海原が広がっていた。
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