kissだけで感じる男と嫌いな男を抱く話

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 ここは男が男と出会うためのクラブ。  金曜の夜、仕事が終わると俺は必ずこの会員制のクラブへとやってくる。  それは好みの男と一夜限りの関係を持つためだ。  スーツ姿で鍛えている体格のいいラインを見れば、大概の男がNOとは言わない。それがわかっているから、今まで不自由なんてした事はなかった。  それがあいつと出会ってから……俺のすべてが狂い始めていた。  さっきからチラチラと目が合う男がいる。目が合えば恥ずかしそうに顔を逸らして、また目が合うという繰り返し。いつまでもこんなことを続けていても仕方ないと思い、俺はグラスを手に持ちその男へと近づいていく。 「こんばんは」 「あっ、こんばんは……」 「君、一人?」 「は、はい」 「へえ……。ここ初めて?」 「そうです。だから、どうしたらいいのかわからなくて……」 「初めは戸惑うよね。良かったら、一緒に飲まない?」 「はい。喜んで……」  優しく声をかければ、また恥ずかしそうに頬を赤く染めて俯いてしまう。そんな初々しさが俺の心を擽ってくる。 「俺は、最上純一。君は?」 「僕は、相楽裕太です。」 「いくつ?」 「21になったばかりです。最上……さんは?」 「俺は、もうすぐ30になる」 「あっ、大人っぽいんですね」  今の感じから、おそらくもう少し上だと思っていたんだということがわかる。  確かに、同じ歳くらいの奴よりは落ち着いたように見えるのかもしれないが、それはきっと本当の自分を隠すことに慣れてしまっているからだ。  自分の好きになる対象が同性だと気づいたのは、中学生の頃だった。それ以来、自分の感情をひた隠しにどうやり過ごせばいいかを常に考えて生きてきたのが、今に繋がっている。 「もっと上だと思った?」 「すみません。でも、十分素敵です」 「あははっ、もしかして年上好き?」 「はい」 「俺じゃ、役不足かな?」 「いえ、そんな……。僕には勿体ないくらいです」 「じゃあ、このまま店出ようか?」  俺の言葉に、相楽という男は静かに頷いた。  どちらかというと、可愛いタイプは好みじゃない。だけど、何となく擽られる感覚が堪らなく欲しいと思った。  グラスに入っていたウィスキーを一気に飲み干すと、相楽の手を優しく握り席を立つ。  そして、歩き出そうとしたその瞬間……、 「あれ、最上純一さん。こんばんは」 「倉林唯人……」 「何、もう行っちゃうの?」 「どけよ」 「いやいや、せっかくだし一緒に飲もうよ」 「どう見ても、こっちは連れがいるんだけど……?」 「だって、俺ひとりだもん……。寂しいじゃん?」 「そんなこと知るか!」  まただ……。  俺が相手を見つけて店を出ようとすると毎回こうしてこの男が目の前に現れる。  一体、何が目的なんだろう……? 「君さ、まだ若いよね?」 「あの……僕は……」 「そんなんでこいつのこと満足させられるの?」 「あっ、えっと……」  俺の後ろに見え隠れしている相楽に向かって、挑発的な態度で攻め寄ってくる。 「おい、倉林。やめろよ」 「だって、本当のことじゃん。こいつじゃ満足できないって」 「そんなのお前に関係ないだろ」 「だって……、クソガキじゃん」 「お前……、いい加減に……」  相楽に向かって倉林が伸ばした手を、咄嗟に掴む。 「あ、あの……、僕……」 「ゴメン、すぐに追い払うから」 「いえ、大丈夫です。ごめんなさい」  スーツのシャツの端を掴んでいた手が、スーッと離れると、相楽は逃げるように去って行った。 「あーあ、逃げられた」 「くそっ、誰のせいだと思ってんだよ」 「俺、だろ?」 「当たり前だ。お前の他に邪魔する奴なんていない」 「あんなガキ興味ないくせに……」 「うるさい。誰かさんのせいで、ここのところ散々なんだよ」 「そりゃ残念」 「俺に近づくな。お前がいると、ろくな事ない」 「そんな言い方しなくたって……」  悲しそうな表情で上目遣いをしながら俺を見ている倉林は、事あるごとに俺の前に現れる。
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