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「諦めてさ、俺とセックスしようよ」
「ふざけんなよ。何で俺がお前と……」
「だって、絶対満足させられる自信あるもん」
「どれだけの自信だよ。それに、俺はお前とは絶対しない」
「そんなこと言わずにさ。ねえ?」
時々、こうして本気なのか冗談なのかわからない誘い方をしてくるけれど、俺は初めから相手にしていない。
初めて会ったあの日にしたキス以外、俺たちがどうこうなることはなく、週末にこうして顔を合わせるくらいだ。
ブルゾンは返さなくてもいいと倉林に二度目に会った時に伝えてある。
「今日はどうするの?」
「どうするって……。だから、誰のせいでこの状況になっているのか考えろよ」
「だから、俺が相手してやるって言ってんじゃん」
「もう、いいから!」
いつもはすぐ引くのに、今回はなかなか引かない倉林に、思わず声が荒ぶった。
早く離れてくれればいいのに……いつまでここにいるつもりなんだろう。
ただでさえ空振り続きで溜まっている俺は、こいつのつまらない冗談に笑ってやれるほどの余裕はない。
「邪魔して悪かった……。またな」
「ああ……」
少しテンション低めにそれだけ言うと、ようやく倉林が離れて行った。
だからといってそういう気分になれるわけもなく、仕方なく切り上げて帰るという選択肢を選ぶ。
「ゴメン、ちょっとトイレ行ってくる」
「わかりました」
バーテンにそれだけ伝えると、席を立ちトイレへと向かう。
トイレのドアを開けると、鏡の前に相楽の姿を見つけた。
「最上……さん」
「相楽……、さっきはゴメン。嫌な思いさせたよな」
「いえ、そんな……。彼の言ってることも一理あるし。僕じゃ、あなたを感じさせられないかもしれないですから」
「あいつの言うことは気にしなくていいから。本当に悪かった」
「そんな謝らないで下さい。僕も……逃げちゃったし……」
申し訳なさそうに俯いている相楽のしぐさが、今の俺には無意識に可愛く見えていて、気づくと相楽を自分へと引き寄せ、唇を重ねていた。
「んっ、ふっ、はぁ……」
だんだんと深くなっていくキスに、相楽から甘い吐息が漏れている。
久々の感覚に、俺はつい我を忘れて夢中になっていた。
絡まる舌を離れないように何度も何度も絡めていく。息継ぎがままならないほど、もっともっと……と追いかけていく。
「……あっ、最上……さん。息、苦しい……」
「あっ、悪い……」
相楽が口の端に透明の液を流しながら顔を赤くして訴えてくる姿に、俺はようやくその唇を解放した。
こんなにも余裕がないなんて、カッコ悪すぎる……
本当は余裕のあるスマートな対応をしようと思っていたはずなのに……
「俺……、かなりかっこ悪い……」
「そんなこと……ないですよ。僕だって十分かっこ悪いですから」
「相楽。もう邪魔は入らないから、一緒に店出ない?」
「僕でよければ……」
二度目の誘いにも応じてくれた相楽の手を握りしめ、さっきまで座っていたカウンターへ戻ると、置いていた鞄を持ち、残っていたお酒をグイッと飲み干して店を後にする。
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