蔦の葉に覆われたビルで縄で首吊りかけた女と女が飼っていた鳥と俺との友情

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87歳になる祖母の姉、ユキばあちゃんの体調が良くないらしい。 「心配だから、おまえ、様子を見に行っておくれよ。何か面白い話でも聞かせてやりゃ元気になるかもしれん」 祖母に頼まれて、俺が向かったのは東北の地方都市だった。 俺が大学三年の夏休み中のこと。 ユキばあちゃんの住居はマンションの4階。 夫を亡くしてからひとり暮らしである。 行ってみると、ユキばあちゃんは意外と元気そうだった。 「よく来てくれたねぇ。令ちゃんが来てくれるなら、これからも時々、体調悪いとホラ吹くのも悪かないね、あははは・・」 俺が着いた日の夜には、冷凍庫の魚やキノコなどを使って美味しい夕食を作ってくれた。 「この塩鮭、冷凍でも美味いな!」 俺が感心して味わっていると 「塩鮭は冷凍して7年目が1番旨みが出るんだよ。その前でも、それ以上でもダメ」 などとユキばあちゃんは真顔で説明する。 「うげっ! 7年前の鮭なの?コレ」 「そうだ。美味いだろう? キノコはせいぜい2〜3年前さ」 「へ〜っ。まぁ美味いから何でもいいや」 そんな風変わりなユキばあちゃんが、実の息子や孫たちは、自分の作った料理をあまり喜んでくれないと、たびたび嘆いていたことを思い出す。 それでなのか俺の祖母のところに、自家製の漬け物や味噌、飯寿司など、よく送ってくれる。 祖母は喜んで食べるが、大部分は俺が食べる。 手作りの味噌は美味い。 漬け物や飯寿司も、売っているものに比べたら保存料など添加物が入ってないので、素材が活きた優しい味だ。 俺は、そんな味で育ってきたので、今風のファストフードなどは不味くて食えん。 食べものだけじゃない。 ばあちゃんたちに可愛がられて育った俺の思考回路は、ほぼ昭和の感覚だ。 戦時中の話など、何千回と聞かされてきたので、空襲警報の音が響いて慌てて防空壕へと走って逃げた経験さえあるような気がする。
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