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「あ、あ、あの、あの、樹くんとつきつきつき合うことになったから……えっとえっと……照れてるんだもん……」
「え?あ……そだな」
顔を赤らめたまま、汐里が樹の顔を見る。
樹はつられて顔をほんのり赤くした。
正直、樹にとっては汐里が初めての彼女というわけではなかった。
年齢も二十代半ばで思春期はとうに過ぎている。
なのに、汐里を見ていると胸がきゅんとなる。
年下の彼女は初めてであり、しかも七つも違うということに照れてしまうのだろうか。
その時、樹が何かに気が付いた。
「あれ、しおりん、そのほっぺどうしたの?」
汐里の両頬が、不自然に赤い。
照れた色とは違う、痛そうな赤みが差している。
「……夢じゃないかと思って……それで」
樹が彼氏になったことが信じられなくて、汐里は何度も自分で自分の頬をつねったらしいのだ。
だが何度やっても痛くて、これは現実なのだと分かったときにはすっかり痛々しい頬になってしまっていた。
「女の子が顔に傷つけてどうすんだよ。しかも自分で」
樹は、心配したような、半分呆れたような表情で汐里の頬にそっと右手を添えた。
「ひえええ!だだだって、だって」
あわあわしている汐里に、樹はふっと微笑んだ。
「ほら、夢じゃないだろ?オレだってこれが夢だったら嫌だよ」
「樹くんもそう思う?」
恐る恐る樹の顔を見上げた汐里は、ぽつりと呟いた。
「うん、現実で良かった」
つねって痛い赤さとは違う、今度は照れた赤みが汐里の頬に差した。
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