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彼氏彼女の事情とは
朝の九時に駅の改札を出たところで待ち合わせ。
今日は映画を観に行こうという約束をしている。
八時四十五分、汐里は柱の陰からじっとその待ち合わせ場所を伺っていた。
五分ほどたった時。
つかつかとやって来て、時計を見る人物・樹だ。
樹はまだ汐里が来ていないことを確認すると、ポケットからスマホを取り出し、何か操作し始めた。
そして重々しく流れるように動く人波に視線を移した。
白いTシャツに黒いデニムパンツ。
シンプルなコーディネートなのに樹が着ているとカッコいい。
離れた場所から樹の姿を見つめていると、汐里は自分のスマホがピロ~ンと音を立てたことに気が付いた。
彼から、「着いたよ」のメッセージが届いたのだ。
(い、行かなきゃ……!)
汐里は、スタンプで返事をしたあとギクシャク歩き出した。
右手と右足が同時に前に出ているようなおかしな動きをしながら前に進む。
樹とは何度も待ち合わせしているのに、どうして今回に限ってこんなふうになってしまうのか自分でも不思議だった。
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