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1. 初めてのうしろ
「久瀬、おまえほんとうに家買ってたのか」
雨瑠が不動産屋で受け取ってきた書類をぱらぱらとめくった夕聖が、呆れた顔をした。雨瑠はくあっとアクビをして、首をかしげる。
「ンなことで嘘言ってどうすんだよ」
「冗談かと思うだろ。ふつう、家ってのはちょっと行って買ってくるようなものじゃないからな」
「ああ、そういや不動産屋の連中もごちゃごちゃ言ってたっけ。家族連れて来て、とかなんとか。壁と屋根あればいいつっておいたのに呼び出されて、面倒だったぜ」
「…そんなんでよく契約してもらえたな」
仕事から帰ってきたばかりの夕聖が、かってに部屋の中に入り込んで寝転がっていた雨瑠の足をまたいで、脱いだコートをハンガーにかける。すらりとしたスーツ姿を見上げて、雨瑠はにまっと相好を崩した。顔が小さくて手足の長い夕聖はかちっとした格好も似合う。
「なに笑ってるんだ」
「いや?」
今日の夕聖も美人だな、と満足なだけだ。
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