○○日記

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○○日記

※Twitterタグにて 「はは、そんなに怖がることないじゃないですか」 という台詞をいただいて書いた話です。 委員会の活動で、弓守満寛(ゆみもりみちひろ)は放課後の図書室にいる。 後三十分ほどで閉館。室内は無人で、本を読んでいた時。カタン、と物音がした。奥の本棚の方。 (本が落ちたか) 目をやれば、本棚と本棚の間の通路へ、す、と人影が入って行く。 「あ?」 誰かいたのか。満寛がいるカウンターは、一つしか無い出入り口の脇にある。誰かが来れば分かる。 読みかけの本を置き、満寛は本棚へ向かう。見回っても、誰もいない。音がした場所には、一冊の本が落ちていた。 「『死因日記』?」 ボロボロの赤い本の表紙には、黒い字でそう書かれている。満寛はその場でページを開く。 「『一九✕✕年○月✕日 三年二組の時和遥(ときわはるか)さんが亡くなります。死因は転落死です。図書室のベランダから転落してしまいました。 一九✕✕年○月△日 一年一組の○○さんが亡くなります。死因は溺死です。プールで溺れてしまいました』何だこれ……」 本文はもう読めず、満寛はパラパラとページを捲る。最後の方へ近付くと、日付が最近のものになってきたが、中身を確かめることは出来ない。本を閉じる。 「読まないの?」 耳元で囁く声がした。驚いて本を落としてしまう。顔を上げると、隣の通路へと何かの影が消える。 (やっぱり誰かいるのか) 本を拾うと、開いたページが目に飛び込んで来た。 『二〇✕✕年○月○日 一年二組の日田技宗也(ひたぎそうや)さんが亡くなります。死因は転落死です。図書室のベランダから転落してしまいました。』 満寛は絶句した。○月○日は今日。人影のことを忘れ、ベランダを見た。誰もいない。 「何だよ、この本」 もう一度通路を見回るが、やはり誰の姿も無い。本を棚に戻すのも憚られ、持ってカウンターに戻る。読書を再開する気にもなれず立ち尽くしていると、ドアが開いた。友人の日田技宗也が入って来る。 「そろそろ終わりでしょ?どうしたの、顔青いよ」 宗也は言いながら、目ざとく満寛の持つ日記を見つける。 「それ、どうしたの?」 「落ちてた。変な日記」 宗也は日記をじっと見ながら、何か考えるように首を傾げる。 「借りて良い?」 「ああ」 宗也は日記を受け取ると、最初と最後のページを見る。そのまま制服のポケットからペンを取り出し、表紙にでかでかと自分の名前を書く。 「宗也?」 宗也はそのままベランダに出る。満寛も追う。柵に近付く宗也の肩を、満寛は思わず掴んだ。振り向いた宗也は、柔らかく笑う。 「大丈夫」 言い終えて、宗也は下を確認して誰もいないことを確認すると、日記を叩きつけるように投げた。 「おい、」 二人が見ているうちに、日記は空中で消えた。 しばらく空を見たあと、宗也が頭を上げ満寛を促して室内へ戻る。 「あーあ。気付かれちゃいましたね」 本棚の前に、焦茶色の制服に灰色のズボンを着た男子生徒がいる。 ぎょっとする満寛に、彼はへらりと笑う。 「はは、そんなに怖がることないじゃないですか。さっき追いかけっこした仲でしょう?弓守満寛さんにすれば良かったかな。日田技さんは意外と切れ者でしたね」 少しばかり、宗也が満寛の前に出る。まるで守るように。 「それは遠慮してください、時和(ときわ)先輩。今後も」 宗也と男子生徒・時和の視線がぶつかる。折れたのは、彼の方だった。 「残念。またね」 時和は、本棚の通路の方へと歩き去る。満寛が追った時には、誰もいなくなっていた。 「昔って、あんな色の制服だったんだね」 宗也が、ぽつりと呟いた。 「紺色と黒で良かったな、今」 気が抜けて、満寛はそれだけを返したのだ。
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