Long Loveletter

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「ずっとお慕いしておりました。」  祖父の部屋で遺品整理をしていたら、古い封筒を見つけた。  中から出てきた便箋は色も黄ばんでしまって、なんとなく湿気を含んだ手触りだったけれど、書き出しの文字にドキッとした。  差出人は書かれていない。  切手の貼られていないところを見ると直接ポストにでも入れたんだろう。 「ご無事をお祈りしております。」  ご無事?  何通かある手紙には身を案じるものが多くてどれもこれも内容がよく分からない。  祖父の若い時の手紙なんだろうけど、俺にはよく分からない。今は手紙なんて書かないし、メールだって会社とかそういうのだけで個人的には一昔前の文化だと思ってるし。  そういえば祖父はよく手紙は良いって言ってたっけ。  形として残るからって言われてもピンと来なかったけど、こんな風に残してあるところを見ると言いたかったことが何となく分かった。 「手紙?」  結局、祖父の部屋の片付けは一日かかって夕飯の時に母親にさっき見つけた手紙のことを聞いてみた。  大事なものなら棺に入れてやった方がいいんじゃないかって。  食事を終えたタイミングで聞いてみたけど、母親は思い当たる節は無さそうだ。 「よくわからないけど、古いやつ。箱の中にいっぱいあってさ」 「どんな?」 「えー?なんかお慕いしておりましたとかご無事をとかあとなんだっけ?」  読み方もよく分からないような単語が多かったからな。  テレビを見ていた父親がゆっくりとこっちを見た。 「それ、ばあさんからの手紙だ」 「ばあちゃん?」 「戦争の時に出せないもんだから書き溜めてて、去年死んだ時にばあさんの部屋から見つかってじいさんが手元に置いてたんだよ」  流石は息子。  親の持ち物の事は把握していたらしい。 「お義母さんってそういう性格だったかしら?」  嫁姑バトルこそなかったけれど、祖母は中々にキツイ性格をしていた。  孫の俺でもそう思うんだから、嫁に来た母親なんかもっとだろう。  いつもにこにこと笑っていた祖父とは対象的なピンッと背筋を伸ばして歩く厳しい人だった。 「素直じゃないんだよなぁ。いっぱいあっただろ?あれ全部渡せないでしまいこんでたんだから」 「捨てなかったの?」 「らしいな」  渡せないなら捨ててしまえばいいのに。  母親もそう思ったのか肩を竦めて夕飯の片付けに戻ってしまった。 「じいさんの宝物らしいから、葬式の時に入れて良いか聞いてみるよ」 「あれが?」 「そうらしい。随分時間を置いて届いた恋文だって笑ってたからな。過去の忘れ物が今届いたって。あの時にばあさんはそんな事を思ってたのかってな」  祖母が亡くなった時にがっくりと肩を落とした祖父の姿を思い出して妙に納得してしまった。  そういうもんなのか。 「でもあれを抱えて会いに行ったらばあさん照れて怒りそうだけどな」 「あー、なんかわかる」  形に残るって、そういうことか。  よくわからないけれど、わかったような気もした。 END
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