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誰もいないと思って油断していた。暖多は恥ずかしかったが、それも束の間だった。何を思ったか、男性は不意に欄干から身をのり出し、身軽に飛び越えた。暖多は咄嗟に駆け寄り男性の手首を掴んだ。ぎゅっと閉じていた目をおそるおそる開けると、暖多はなんてことをしてしまったんだろうと思った。自らの意思で川に飛び込もうとした人を、無理やり引き留めてしまった。しかし、そうは言っても手を離すのは怖かった。
「おい、離せ!」
男性は叫んで手を振りほどこうと暴れた。重さで引っ張られそうになりながらも、暖多は一旦は助けようと思った。だが、小柄で非力な暖多には無理な話だった。しかも、周りには人がいない。助けを呼べなかった。
突然、暖多は、手を掴んだまま欄干を飛び越え、体を男性に引き寄せた。
「…は?」
水面の月は形が崩れるほど大きく揺れた。
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