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「そうなんですか?祖母、いえ、母も喜びます。」
「今度是非お会いしたいわ!」
「はい。母に伝えておきます。」
えーっと、お母様は私が偽物の恋人だって知ってるのかしら?
ちらっと冴月さんを見るが、冴月さんは蕩けるような笑顔で私を見つめている。
うわっ!この人、演技もできるの!?
まるで本当の恋人に向けるみたいな表情だわ。
「素敵なお嬢さんじゃないか、冴月。」
「はい。私には勿体ない方だと思っています。」
違います!私に貴方がもったいなさすぎなんですって!
「で?いつ結婚するんだ?早ければ早いほうがいいぞ。なんなら今日のパーティーで発表したらどうだ?」
な、な、な、なにいってんですか?焦って冴月さんを見るが、冴月さんは一切焦りを見せずニコニコしながらお祖父様をなだめる。
「お祖父様、流石に私はこれから新しいポストにつくわけですし。彼女も新しく立ち上げる事業の中心メンバーになってくれたばかりです。二人の仕事が軌道に乗って、周りの方に認められてから話を進めたいと思っています。ね、涼音?」
「あ、はい!冴月さん!」
おお!ナイスな言い訳!心の中でグッジョブ!を送る。
「……そうか。だが、なるべく早くしてくれよ!私も年だからな!」
「はい、頑張ります。二人でお祖父様に喜んでいただけるように。だから長生きして見守ってくださいね。」
「……。わかった。」
パーティーの開場時間が迫ってきたことをトーゴさんが伝えに来た。
やっと第一のミッションが終わったのに、いよいよ、本当のお披露目の会が始まるんだ。
お祖父様、お母様から離れた場所で、冴月さんが私に声を掛けた。
「お疲れ様でした。本当にありがとう。」
「大丈夫でした?」
「うん。二人共すっかり貴女を気に入ったみたいでしたね。」
「………あの、お母様にも話してないんですか?本当は私が恋人なんかじゃないって。」
「あの人、嘘つけないから絶対にバレる。」
「はぁ。……それにしても誕生日、全く一緒だったんですね。オマケに同い年って。びっくりしました。」
「ん?もっとおじさんに見えましたか?」
「そんなことはないですけど…。でも同い年でこれからこんなに責任のある役職に付くんですね。堂々としていて凄いです。」
「そんなことないですよ。常に足が震えます。」
「……私、少しでも力になれるよう頑張ります!同級生がこんなに頑張ってるんですもん!あ、同じ学校じゃないから同級生はおかしいですね。」
「……学生時代、いや、子供時代に本当に同級生だったらどんな風だったでしょうね?」
「私と天夜さんがですか?天夜さんはきっと私とはいるグループが違ってますよ。天夜さんはクラスのイケてるグループでしょうし。私はいっつも下向いてるような子だったから。」
「そうなんですか?目立ちそうなのに」
「そうなんです。この見た目で目立つからこそできるだけ存在感消してました。」
そんな話をしているうちにパーティーの来客者もどんどん受付を終えて入ってきた。入口近くにいた天夜さんのお祖父様とお母様は様々なお客様にご挨拶をされていた。
天夜さんはパーティーの最初に紹介されてから壇上に上がる予定なので今はこうして影から会場の様子を見ている。
カーテンの後ろから見ているので場所のスペースに限りがあり、私と天夜さんの距離が近い。天夜さんの付けている香水の香りがはっきりわかる。ちょっぴり甘くてウッディな香りが、私を包み込むみたいだった。
彼の色である深い緑を感じる。
私の中で危険信号が点る。
駄目だ。この人の色を求めてはいけない。
この人を好きになったら南野との時よりも傷つくだろう。
私には決して手の届かない人。
私は実の親にも恋人にも捨てられるような人間なのだから。
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