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友情
あのパーティーの数日後、ムーンリット・ドアは無事営業を始めた。
少しずつ落ち着いてきたある日、私は久しぶりに彩女さんの店で「副業」をしていた。
彩女さんが用意したよくわからない衣装を着せられ、予約していたお客様の「色」を見る。
「あー、だいぶ拗れてますね。」
「わかります?」
今日のお客様は二人組の女性だった。
二人は学生時代からの友達で、とても仲が良さそうだった。
今度片方の女性が彼と結婚しようと考えていたのだが、ここに来てマリッジブルーなのか迷いが出てきたらしい。
「迷っているのは彼との価値観の違い?お金とか友人との付き合い方とか。」
「あ、はい。すごっ!わかるんですね。」
「貴女、すごく堅実な方ですもんね。小さい頃から。」
「そうなんです!貯金が趣味とか言われちゃうんです。」
「彼はたぶん、すごく社交的な方よね。ちょっと見栄っ張りなところもあるし、お酒を呑んだりすると、周りの人に奢りまくったり。」
「そう、それ!ヒヤヒヤするんです。」
「結婚してと貴女は自分も変わらず働いていくから生活は困らないだろうけど、不安にはなるわよね。」
「……はい。」
「結婚を考えているならそこ、避けては通れないものね。」
「はい。お財布は別々、って夫婦もいるし、私も働いて行くつもりだけど、私、子供も欲しいんです。
でもそうなると働き方を変えなきゃいけないことも出てくるし、でも彼はそれに合わせてくれるとは思えないんですよね。
そもそも子供も『いてもいい』くらいに思ってて。自分の楽しいのが一番大事なんですよね、きっと。」
「……貴女はどう思う?お友達のこと。」
一緒に来たお友達に話を振る。
「……私は。萌ちゃんには幸せになって欲しいんです。心から。
私、高校時代、クラスの女子のリーダーに目をつけられてて。その時、萌ちゃんだけが声を掛けてくれて。萌ちゃん、すごく勉強が出来て、みんなに一目置かれてたから、イジメをしてきた女子も手を出せなくなって。」
「恩を感じてるし、とても心配してるし、大好きなのね。」
コクン、と頷くお友達の女性ははとても淡い色で友達を守ろうとしている。でも、なにか嫌な色がその守りを破ろうとしている。
「アイちゃん……」
優しいお友達の名前はアイちゃんらしい。
私はアイちゃんを見つめる。
「ねえ、アイちゃん?ごめんなさいね、勝手に名前を呼んで。」
「あ、いえ。」
「アイちゃん、何か萌ちゃんに言いたいこと、言わなきゃいけないことがあるんじゃない?」
ハッとしたように、アイちゃんは顔を上げた。その目には涙が浮かんでいる。
「え?何?アイちゃん。どうしたの?」
アイちゃんは私を見て、それから決心したように萌ちゃんに向き合った。
「萌ちゃん、これ、見て。」
アイちゃんはスマホを取り出すと、とあるSNSの画面を見せた。
「え?これがどうかしたの?だれのSNS?」
「河辺サヤカ。」
「え?あの高校時代の?」
「そう。あの私をイジメていた河辺サヤカ。」
「あの子と繋がってたの?いまでも」
「ちがう、これ、別の子から教えてもらったの。サヤカにあったときに、『いけ好かない女に仕返ししてやってる』って言ってた、って心配して。もしかして今だに私に嫌がらせしてるんじゃないかって。調べてみたほうがいいって。」
「……」
「でも、サヤカのターゲットは私じゃなかった。これ、見て。」
SNSにはキラキラした日常や彼氏自慢が溢れていた。
「#彼と旅行」「#プレゼント」「#イルミネーション」「#ディナー」
そして、そこにはこっそり隠し撮りのように彼の後ろ姿や手や私物が入っている。ベッドで寝ている彼の背中が見切れている写真も。
なるほど、これが「匂わせ」ってやつか。
「……これ……」
萌ちゃんは真っ青になった。
先に泣き出したのはアイちゃんだった。
「ごめん!萌ちゃん!私がサヤカに目をつけられたりしたから!サヤカずっと私が嫌いで。でも思うように私を虐められなくて。私がずっと萌ちゃんと仲良くしているの知って色々嗅ぎ回ったみたい。それで萌ちゃんに攻撃することにしたみたいで!」
「……それで私の彼にチョッカイ掛けたってわけか。」
ふ~、とため息をついた萌ちゃんはおもむろにアイちゃんのほっぺたを両側から掴んだ。
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