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「こら!アイちゃん!泣くな!」
「も、萌ちゃん!」
萌ちゃんは無理しているだろうけど、ニヤッと笑う。
「アイちゃん、ゴメンね。私のせいで苦しかったでしょ?」
「萌ちゃんのせいなんかじゃないよ!」
「うん。それと同じように、アイちゃんのせいでもないんだよ。」
「もえ……ちゃん。」
「大丈夫!あんなキツネ女に騙させて浮気するような男と結婚しなくて済むんだからラッキー!あんなお金にも女にもだらしない男、キツネにくれてやるわ!」
ギュッ!と萌ちゃんはアイちゃんを抱きしめた。
「もう、あのバカ男にはすぐ別れるって言う!」
と言う萌ちゃん。
「でも、言い逃れとかされたりしない?」と心配した私が聞く。
「それは大丈夫です!」となぜかアイちゃんが自信満々に言う。
「え?アイちゃん?」
アイちゃんはスマホをいじってアルバムをだす。
「あ、アイちゃん、これ………」
「私、サヤカを尾行したの!それで撮れた写真がこれ!」
サヤカという派手で下品な感じの女がツーショットでホテルやマンションに入っていく写真。
面白い?のはその相手が複数人いること。
どうやら、萌ちゃんの彼氏はその中の一人らしい。
しばらくボー然と写真を見ていた萌ちゃんは、突然笑い出した。
「あ、アイちゃん、ちょっと、どんだけ頑張って尾行したのよ。しかも写真うますぎだし。プロの探偵みたいじゃない!」
「知り合いのカメラマンに、教えてもらったの。隠し撮りのしかたとか。変装とか尾行も。」
「どんなカメラマンよ。○春とか?」
えへへ、とアイちゃんは笑う。きっと大好きな萌ちゃんの為に死ぬ気で頑張ったのだろう。イジメの相手なんて、見るのも怖かったろうに。
二人は泣き笑いの顔で、占いルームからカウンターに移動して彩女さんの作ったカクテルを飲んでいく、と話していた。
「お疲れ様、涼音。」
占いの部屋を片付けて、カウンターに行くといつものようにシナモンティーを出す彩女さん。そして、何故か今日はカクテルも出してくる。
「え?」
「あちらのお客様からです。……うふふ、これ、言ってみたかったセリフなの!」
彩女さんはいたずらっぽく笑ってカウンターの隅を指した。そこに優しい笑顔で軽く手を上げる人がいた。
「天夜さん……」
「こんばんは、氷室さん。」
「いらしてたんですか。」
「はい、あれからちょくちょく寄らせてもらってます。」
「ズルいです!私は仕事が忙しくてずーっと来れなかったのに。」
「それは大変だ。一体どんなブラック企業なんでしょうね?カフェにも自由に来れないなんて。」
「本当ですよね!」
プッ、と吹き出して笑い出したのはほぼ同時だった。
「隣に座っても?」
「……はい。」
天夜さんからのカクテルは甘くて、お酒をあまり飲まない私でも飲めそうだった。
「あ、美味しい。これ、なんてお酒?彩女さん。」
カクテルには詳しくない。
「杏のお酒よ。アプリコットフィズ。」
「へえ。美味しいです、天夜さん、御馳走様です。」
「良かった。彩女さんから貴女はあまりお酒は召し上がらないと聞きましたので飲みやすいものをおねがいしたんです。でも口当たりが良くても飲みすぎないでくださいね。明日も早朝会議もありますから。」
「あはは……総支配人に飲まされて二日酔いでーす!とか言わないようにしないと。」
「是非お願いします。お酒で酔わせないと女性を口説けないのか?って言われるのも癪ですしね。」
「え?」
今日の天夜さんもどうやら腹黒らしい。
「さっきのお帰りになった女性二人は今日のお客様ですか?」
「あ、はい。」
「無事悩み事は解決なんですね。スッキリした顔で帰っていかれました。あ、誤解しないでくださいね、占いをしているところは覗いてませんよ。ただ、カウンターですごい勢いで二人共彼氏と知り合いの文句を言ってましたから。」
彩女さんがくすくす笑う。
「実はね、天夜さん彼女たちに絡まれちゃったのよ」
「え?」
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