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衝撃のニュース
冴月さんの告白から一夜明けた。当たり前だが世の中は普通に回り続けている。
太陽は昇るし北国では雪が降ったとニュースが言っている。
どこかの国では戦争が起こっている。かたや、どこかの小さな国では政権交代が行われていたり。
昨日と何ら変わらない日常。
ダイニングからはいつも通り祖母の作った朝食のいい匂いがする。
そう。いつも通りお腹も減ってる。
「おはよ、お祖母ちゃん。」
「オハヨ、涼音。……泣きましたか?」
「…ちょっぴり。目、腫れてる?」
「ダイジョウブ。タオル持ってくるネ」
祖母は温かい濡れタオルとコーヒーを渡してくれた。何も聞かないでくれるのがありがたい。
タオルを目に当てたまま祖母に話し掛ける。
「お祖母ちゃん、今度お祖父ちゃんと、うちのホテルのアフタヌーンティーおいでよ。」
「アフタヌーンティー?」
「うん。すごく有名なんだよ。冴月さん……、総支配人が招待してくれた。3人でお茶しよう。私の次の休みに予約取っておくね。」
「素敵ね。ソウさん、優しいのね。」
「あはは、ソウさん、って何よ。名字じゃないよ、ジェネラル・マネージャーのこと。」
「あ、シッテマス!この間、雑誌に出てました!ビューティーサロンでヘアカット、してたときに、ヘアドレッサーの人『スゴイ、イケメンねー!』って言ってました。」
就任式の時の写真が経済誌ばかりでなく、ちらっとではあるが女性誌に載った天夜さん。どんだけなんだって話だ。
だいぶ腫れの引いた私はお祖母ちゃんの作った美味しい朝ごはんを食べて出勤した。
ムーンリット・ドアはお客様からの要望を待つだけでなく、積極的にお客様に提案をすることにした。
外国のお客様に、既存のツアーばかりでなく、「忍者体験」やら「居合抜き」「伝統工芸」の見学などを手配できるようにしたり、
「鉄オタコンビ」による「鉄道を見る、知る、触れる旅」などもあったりする。
ブースのあちこちに撮り鉄の岡田くんが撮った写真なども飾っている。いいのか?
しかしながらこれが外国人のお客様にも結構ウケて、質問してくるお客様も多く、それがきっかけで旅行のご依頼を受けたりする。
半月後のブライダルフェアの準備も着々と行っていた。
笠間チーフ、桧山さんも本を読んで旅行の知識を入れていく。
二人共、接客に関しては私よりずっとできる人たち。効率的に、あいている時間や家で、Nトラベルのパンフレットを熟読してもらう。
パンフレットが教科書。ガイドブックが参考書だと思ってほしい、と話す。
私は海外ウェディングの勉強をし直した。Nトラベル時代はどちらかというと団体旅行の手配がほとんどだったから、個人のましてや海外ウェディングはあまり経験がない。
ホテルウェディングの人が、ブライダルフェアでは当たり前だが、様々なご要望に応えられるようにしたい。
ありがたいことに当日、新婚旅行の相談をしたい、という予約も少しずつ入ってきた。
ホテルスタッフの方々とも会議や昼休みなどで親しくなっていく。
ムーンリットホテルには社食があり、これがまた美味しい。そりゃそうだ。レストランシェフの研究と披露の場でもあるんだから。
「ねえねえ、氷室さん」
以前のパーティーのときにヘアメイクをやってくれた美容部のスタッフが気さくに声をかけてくれる。
「はい。」
「あのさ、ブライダルフェアの模擬結婚式で使うウェディングドレスの試着してみない?」
「え?いや、遠慮しときます。」
「いや、当日はモデルさん呼んでるんだけどね、ヘアメイクとかの研究したいのよ。モデルさん、外国人でね。イメージ的に氷室さんなら練習にピッタリなのよねー。」
「無理ですよー。」
「……私ね、ここの社食のシェフと付き合ってるの。」
「へ?」
「……まぼろしプリン、食べたくない?」
「……え?」
まぼろしプリンとはこの社食の伝説のプリンで。いつ、何個出てくるかわからないと噂のプリンだ。
食べた人は皆、その美味しさに悶絶するとか。私も転勤してきてから噂だけしか聞いたことはない。
「次のとき1個取り置きしてあげる。言っとくけどこれ、食べたら、今まで食べてたプリンは何だったんだ、って思うくらいの絶品よ。」
「……ま、前向きに検討します。」
「明日の時間外に美容部来てね。」
「あ、明日?」
「あ、今日の方がいい?」
「いえ。……明日でお願いします。明後日お休みなので皆さんをがっかりさせて自己嫌悪に陥っても立ち直る時間ができるので。」
「…………どれだけ自己評価低いのよ……。」
こうして「美容部の魔術師」と呼ばれる山田さんと私は親しくなったのだった。
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