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睨み合いながらも、彩女さんのとりなしで、私達は店のソファに移動した。急遽だったので、ソファを移動したり、テーブルをくっつけたりしながら全員が座れるような形に「冴月さんが」してくれた。
彩女さんと母はニヤニヤしながら冴月さんを見て
「うちの娘、面食いだったのね?」
「オマケに頭も良ければ、お金もあるわよ。仕事もできるし。」
「でかしたわねー」
などとガールズトークを繰り広げている。
頼むからやめてほしい。その会話が耳に入るとますますデュボワさんの腕に力が入り逃れられなくなる。
全員が座れる数のソファがあるのに、デュボワさんは私を膝にのせたまま座る。やめてほしい。できるだけ怖い顔をしてデュボワさんを睨んでやると
「……カワイイ」
と、なぜかまた頭にキスをしてくる。
「セディ、年頃の娘に過剰なスキンシップは嫌われるわよ。ウザいとか言われるのよ。」
母、もう少し早く止めてください。
「娘を抱っこして何が悪い」
強面親父は凶悪な顔で手を緩めない。力強いな!おい!
「せいぜい5、6歳までだと思いますよ〜、娘を抱っこって〜!私、もう26ですけど!」と私が言うと。
「む。そうなのか。ではできなかったぶん、あと5.6年は常に抱っこだ。」
コイツ、ああ、もうコイツでいい!日本語できるけど人間の心わからないのか?
そこへやっと祖父母が店へ入ってくる。
24年ぶりに会う娘、謎の強面外国人に捕まっている孫娘を見て、数秒固まる。しかし、母の呑気な一言で空気が変わる。
「パバ、ママ!元気だった?久しぶり〜」
って母、軽すぎでしょ!
「サクラ、お腹空いてませんか?ミートパイ持ってきましたよ」
お祖母ちゃん……さすがこの母の母よね。
「あー、ママのミートパイ!食べたーい!」
祖母からミートパイの入った容れ物を貰うと、カウンターに勝手に入って取り分ける。
なんだ?この状況……。
この状況で助かったことと言えばデュボワさんが、私を膝から降ろして、祖父母に挨拶をしたこと。私はその隙にサッと逃げる。
逃げた先に冴月さんが手を伸ばして、私は思わずその隣りに逃げ込んだ。
祖父母に挨拶をしていてこっちを見ていないはずなのに、デュボワさんのセンサーが警戒警報を鳴らしたのがわかる。ものすごい敵意の「色」が、冴月さんに向かって押寄せる。
「視え」ないはずの冴月さんさえ、その圧を感じているようだ。
両親のことを知った日から、何度となく色々なパターンの親子の対面を想像していた私だが、こんな「はじめまして」は考えてもいなかった。
「ミートパイ、食べながら話しましょう!」
場の空気を考えない母に頭が痛かった。
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