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真相
「サクラ、最初から話しなさいよ。なんで24年も『ちょっと出掛けてくる』でいなくなるのよ。」
彩女さんが口火を切った。
「そうなのよねぇ。私もまさかこんなに帰れなくなるなんて思わなかったのよ。」
母は話し始めた。
モデルを辞めて、世界を放浪していた頃、M国で反政府運動をしているセドリック・デュボワに出会って、二人は瞬く間に恋に落ちた。
政府に追われるのは日常茶飯事。常に行動をともにしていたある日、母は自分が妊娠してると気づいた。
セドリックにも話せず、かと言って産まないと言う選択肢はなかったらしい。
母はどうしたら子供を無事に産めるかを考えた。
セドリックは危険と背中合わせの生活をしている。そこで出産、子育てなんて無理だ。
しかし、セドリックに話したなら自分の信条を諦めて自分と子供のことを優先するだろう。もしかしたら他国に行こうとするかも。
すでに反政府運動の中心人物になっていたセドリックが運動を離脱したら、彼を信じているすべての国民は途方にくれ、独裁政権は更に続くだろう。たくさんの死んでいった者、捕らえられたもの、全てが無駄になってしまう。
母はセドリックに妊娠の事実を伏せ、両親が病気になったと偽り、日本に一時帰国してくると告げた。
そして、日本に帰国して一人で私を産んだ。
すぐに子供を施設に預けてM国に戻るつもりだったが、いざ、我が子を抱いてしまうとどうしても手放せなかった。
結局両親を頼った。
いっそ、娘も一緒にM国に行こうかとも思った。しかし、あの国では自分やセドリックだけでなく娘の命さえ狙われかねない。
だとするならば、遠い日本で両親に託して行こう。
セドリックには子供を産んだことも秘密にした。
誰にも自分やセドリックの弱点になるであろう娘のことは言わなかった。
M国に戻り、暫くして、セドリックと共に捕まり、軟禁状態に置かれた。
何年も行動が制限される中、セドリックは無気力になっていった。
無力感に苛まれいつ死んでもいい、などと言うこともあったらしい。
そんな中、一年ほど前のある日
母の部屋の隠し扉の中に私の写真を見つけた。生まれたときから別れた2歳の時までの写真。
そこには自分と同じ紫がかった青い目の私がいた。
セドリックは写真の日付をみてすべてを悟った。母は問い詰められ、ごまかしがきかないことがわかった。
25年前に子供を産んだこと。日本の両親に預けていることを話した。
その事実を知ったセドリックの変化は凄かったらしい。
「もうね、一気に30年くらい若返っちゃってねー。なんとしても日本に行って娘に会う、連れてくる、その為にはこの国を変えなければ!って。あっという間に反政府運動を盛り上げちゃってね、気づいたら政権奪っちゃってたのよ〜。」
…………え?……なにそれ。娘に会いたいがために革命成功させちゃったってこと?怖いんですけど。
デュボワさんは母の話を聞いているのかいないのか、ひたすらに私の隣りにいる冴月さんを睨んでいる。
無言の圧力で「娘をこっちに渡せ」と目で訴える。
冴月さんも負けずに睨み返す。その目は「絶対に渡しません」と言っている。
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