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ブライダルフェア・パニック
ブライダルフェア当日。
たくさんの来場者が、朝早くから披露宴会場の雰囲気やお花などを見て回る。
予約をしていたお客様は、レンタル衣装を着て撮影をしてみたり、格安の料金で披露宴で出されるフルコースを試食していただいたりした。
「おいしー!でも、これって当日は食べられないんだよね?」と花嫁さんになるであろうお客様が悔しそうに言う。
「そんなことありませんよ。新婦さまがお召し上がりになることは別にマナー違反じゃありません。」
と、担当者が微笑む。
「そうなんですか?でもメイクとか落ちそう。」
「なるべく食べやすいように小さく切ったものをワンプレートにご用意することも出来ますよ。」
「ほんとですか?うわー、ぜひ!」
「食い意地はってるんだから!」
新郎様がからかう。
「だってさ、ドレス、キレイに着たいから当日までダイエットするんだよ?当日こんな美味しそうなの食べられなかったらお腹鳴りそう。」
幸せそうに笑うカップルがあちこちに見える。
旅行ブースも、昨日のお客様がご契約したのはもちろん、意外と沢山の人が話を聞いてくれた。
昔、上司が言っていたことを思い出す。
旅っていうのはな、世の中になくても生きていけるんだよ。行けなくたって命に関わるなんてほとんどない。
だからこそ旅に行こうという人間は夢を見る。笑う。来るお客様の夢や笑顔を手助けするのが俺たちなんだ。
ブライダルだってそうだ。やらなくたってどうってことはない。でもやるなら心に温かい思い出を作って欲しい。
そんなふうにブライダルフェアのお客様を眺めていると、美容部の山田さんが早足で旅行のブースにやってきた。
「あ、山田さん!この間はありがとうございました。」
山田さんはブースの中の桧山さんに
「どうしよう!桧山さん!」とすがりついてきた。
「トラブル?」声を潜めて聞く桧山さん。
山田さんを影につれていく。私もつられて裏に行った。
「今日の模擬結婚式のモデルが昨日大阪のショーに出ていたんだけど、新幹線の電気トラブルで名古屋で立ち往生してるって今電話があったの。復旧の見通しがたってないって。」
「……男性モデル?女性?」
「どっちも。同じショーに出てたの。ねえ、桧山さんのツテでなんとか代わり手配できない?」
コンシェルジュ時代、どんなご要望にもノーと言わない「諦めない女」の桧山さんを頼りにしてきたのだろう。
「女性の方は、まあ、氷室さんに頼めばいいとして……」
「そう、問題は男性よね。」
ん?ちょっと待って?なんで私が代役に決まってるの?
「いやいやいやいや、無理ですって!」
来場のお客様にバレないようにヒソヒソ声の限界まで大声で拒否する。
「何言ってるのよ。女性モデルのほうがメイクやヘアに時間がかかるんだからすぐに手配できるわけないじゃない。すぐに支度にかからないと!」
桧山さんが普段のフンワリママのイメージはどこへやらテキパキと指示を出す。
「模擬結婚式は15時からよね?あと3時間。山田ちゃん、まず氷室さんにとりかかって!新郎はこっちで当たってみる。」
へー、桧山さん山田さんのこと「山田ちゃん」って呼んでるんだ〜………ってそんなのどうでもいい!
「すずちゃん!ここは助けて!まぼろしプリン、またとっとくから!」
す、すずちゃん?え?友達少なくて(ほぼいなくて)そんなふうに呼ばれたことなかったからちょっと嬉し……じゃない、まぼろしプリン、確かに目が飛び出るほど美味しかったけど!あ、ひらめいた。
「あ、そうだ!山田さん、山田さんとシェフの彼さんで模擬結婚式やったらどうですか?」
我ながらナイスアイデアだ!と自画自賛。
しかし。
「あ、無理。彼、165センチ98キロのワガママボディだから!すぐにはタキシード用意できませーん!」
引きずられるようにドナドナされていく私だった。
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