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一週間前に試着をしていたので、そういう意味では美容部のみなさんの動きはめちゃめちゃスムーズだった。
髪型を整えつつ、メイクも施していく。一般のお客様のドレス試着も近くの特設ホールで行われていて、私と違って楽しげなカップルの様子が聞こえてくる。
私はまな板の上の鯉状態。
模擬結婚式を楽しみに今日来ているカップルもいるだろう。こんな素敵な式場で誓いを立てたいと思ってもらいたいのは私も同じだ。
「山田さん、秘書室の福田さんがお見えです!」アシスタントの女性が作業中の山田さんに告げる。
福田東吾さん。冴月さんの秘書のゴリマッチョだ。
「ごめん、福ちゃん、手を動かしながらでいい?」
おお!トーゴさんは「福ちゃん」呼びなのね。
「構わない。山田さん、俺が新郎をやらされ……じゃなく、やる。」
「ありがとう。桧山さんに頼まれたの?」
「ああ。さっき桧山さんが役員室に来て、モデルの代役の男性がいるから、冴月さんに依頼したんだ。冴月さんは絶対にやらないって。代わりに俺にいけって言ったんだよ。」
「ふーん。………まあ、福ちゃんだとゴリすぎるけどー」
「悪かったな!ゴリラで!」
「………福ちゃん、LI○E、に今画像送ったから、それ、GMに見せてきて。」
山田さんから送られたLI○Eを開くと、トーゴさんは早足で引き返して行った。
鏡越しに私の出来上りをみて頷く。
「よーし、じゃあ、ドレス着ちゃおうか?そっちの部屋にドレス用意してるから着てきて。」
簡易のロッカールーム、カーテンで仕切ってあるだけだが、そちらに移動した。
着替え始めた時に、カーテンの向こうで冴月さんの声がした。
「山田、これ、何だ?」
「えー?どうもこうも、今日の代役モデルのすずちゃんだけど?まさかこんなことになるとは思わなかったんだけど、リハーサルで試着とヘアメイクをさせてもらったのよ。その時、皆で撮影会したのよねー。可愛いでしょ?」
「……今日も氷室さんが代役するのか?」
「そ。黙ってようかなー、って思ったんだけどさ、小学校の同級生のよしみじゃない?特別教えてあげた。」
「……………」
「で?どうする?新郎、福ちゃんでいいの?」
「……やる」
「えー?なんですかぁ?聞こえませんけど。」
「俺がやる!」
「了解でーす。タキシード、役員室に届けるからそこで用意してね。ここ、スペース狭いから。」
「……頼んだ。」
「模擬結婚式成功したら次回ボーナスに期待してますよ。天夜GM!」
カーテン越しで姿は見えないのに、山田さんの勝ちほこった顔が見えるようだった。
そ、それにしても模擬とはいえ、冴月さんとの結婚式。ゴロゴロ転げ回りたいくらいはずかしい。
そして思った。今日、デュボワさん、ホテルにいなくて良かったと。
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