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初恋と秘密のワード
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんはなぜか紋付きの和服でやってきた。
もうね、日本好きの外国人みたいな出で立ち。実際、そうなんだけどね。お祖母ちゃんは日本が大好きで実は着付けも出来る。歌舞伎を見に行くのに自分で着物を着ていったりする。なぜか言葉だけは片言だけど。
「涼音ちゃん、カワイイです!デモ白無垢はキナイノデスカ?」
「うん、お祖母ちゃん、今日は来てくれてありがとう。今日は模擬結婚式だからね。チャペルでフリをするのよ、結婚式のデモンストレーション。」
「……じゃあ、ホンモノの時は白無垢の三三七拍子がイイデスネ。」
お祖母ちゃん、それ言うなら三々九度ね。
白無垢で日の丸の扇子をチャッチャッチャッって振り回す花嫁、シュールすぎる。
お祖母ちゃんの天然ボケにほんわかしたのもつかの間。廊下に足音がして鬼の形相のデュボワさんがドアをぶち壊さんばかりに入ってきた。
「絶対に駄目だ!許さんぞ!」
その後ろから間の抜けた調子の母が
「チョット!セディ、落ち着いて!あら、涼音、素敵じゃない。」
とのんびりと入って来る。
はぁ、ホントに会合切り上げて帰ってきたのかしら?
お祖父ちゃんと話していた冴月さんのお祖父様とお母様も、いそいそと、こちらにやってくる。
「初めてお目にかかります。冴月の母です。涼音さんのお父様とお母様ですね。テレビのニュースでお顔は拝見しておりましたので何だか初対面の気がしませんわ。」
「……………」
なぜか、冴月さんのお母様をみて常にマイペースの母が固まったまま、真っ赤になり呼吸も浅くなっている。
「うそ………。涼音一冴?そりゃ冴月さんは似てると思ったけど、親子で好み一緒なだけかと思ってた。」
「お母さん?」
私の問いかけも聞こえないように母は熱に浮かされたようにブツブツ言っている。かと思ったらハッとしたようにバッグの中から一枚の写真を取り出す。
「あの!サインいただけませんか?涼音一冴さんですよね?宝山歌劇団の男役の!わ、私、大ファンで!子供が生まれたら女の子なら涼音、男の子なら一冴にするって決めてたんです。」
はい?頭の中大混乱なんですけど。宝山歌劇団ってあの女性ばかりの超有名な劇団?冴月さんのお母様がそこにいたの?それでもって私の名前の由来、それ?
「まあ。光栄です。もう昔のことだから覚えている方なんていないと思ってました。そうですか。涼音ちゃんのお名前、私から取っていただいたのね?初めてお会いしたときから余計に他人のような気がしなかったのよ。」
冴月さんのお母様はにこにこ笑って差し出された写真とペンを受け取りサインをしていく。
ちらっと若き日の男役のその写真をみて思わずつぶやく。
「え?これ、冴月さんそのままじゃない。」
私のつぶやきに他のメンバーもわらわらと集まってきて写真を見せてもらう。
「ホントだ。GMがポーズ取ってる。」
「白いスーツも似合うわね。」
みんなの言葉に冴月さんが赤面する。
「…どーせ俺は女顔だよ!」
「あら、違うわよ。私が男顔なの。男役顔。」
「いや母さん、どっちにしろ女だから。」
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