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あの出会いから三年半。
彩女さんは今では友人であり唯一の相談相手だ。賢也にニ年以上口説かれて。それでも社内恋愛に踏み込む面倒臭さに二の足を踏んでいた私に
「まあ、だめになったところでせいぜい失職するくらいよ?命まで取られるわけじゃないし、失業したら、『こっち』を本業にすればいいわよ」
と背中をおしてくれた。
「なあに?はっきりしないわね。彼となんかあったの?」
「後輩の女のコがね。今日誕生日なんだって。『付き合い始めて初めての誕生日。プロポーズとかされちゃったらどうしよう。いくらなんでも早すぎますよね?』って言って早々と会社を出ていった。彼が素敵なレストランを予約してくれてたんだって。何ヶ月も前から予約しないと取れないって。」
「それで?」
「ル スリジエ」
「え?」
「彼女が今日行った店。ル スリジエだって。」
「それって…」
「そう。彩女さんのもう一つのお店。彩女さんが予約してくれた。急な仕事が入ってしまったから自分がキャンセルしとく、って彼が言ってた。彼はあの店のオーナーの彩女さんが私の知り合いだなんて知らないから。ただ私が予約したと思ってるんだよね。でもさ、それを別の女とのデートに使うなんて酷すぎるよね?」
「今すぐ店を追い出してやるわ!」
彩女さんは害虫を見つけたような顔で宣言した。
「いいのよ、彩女さん」
「よくない!全然良くない!ろくなデートもしてないみたいだから席をとったの!可愛い娘のために!」
「昼にね、ドタキャン言われたときについ、視ちゃったの。彼のオーラ。」
「え?」
「嘘の色が出てた。きみの悪い色。だからね、私『わかった』って言って。その後すぐ、ル スリジエに電話した。キャンセルしといて、って。ごめん、念のために『彩女さんの紹介で予約した』って名前出した。万が一席が埋まってなくてもその人達は入れないでって。」
「あらまあ、さすが予約手配のプロだわね。」
「今頃お店に門前払いされてる。私って酷い?」
「酷いわね」
「ごめん!」
「そんな面白そうなこと、もっと早く知らせなさいよ。あっちの店に行って陰から店を追い出されるの見てやったのに!」
彩女さんは悪い顔で嗤った。
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