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「でも、面白くないわねぇ。予約してたはずの店に断られたくらいじゃねぇ。どうせそんな男のことだから、ル スリジエがミスしたとかなんとかバカ女に言って収めようとするんでしょうね。」
「あわてて他の店を探すんでしょうね。せっかくの誕生日だったのに残念ね。」
「それにしても、その後輩チャン、貴女と南野さんが付き合ってること知らないの?」
「知ってるんじゃない?特に隠してもいないもの。たぶんあの子、賢也には『私には内緒で』って言ってると思う。そう言いながら私にはマウント取りたいのがミエミエ」
「女が性格悪いのか、男が馬鹿なのか」
「両方じゃない?」
彩女さんが新しいシナモンティーを淹れてくれた。ほぼ同時にお店に今日初めてのお客さんが現れた。
「いらっしゃいませ。お一人ですか?お好きな席へどうぞ」
入ってきたのは若い男性だった。たぶん私と同じくらいの年代。普通のサラリーマンにしては着ているスーツが高級品だと一目でわかる。
でも彩女さんの目が輝いたのはその人がお金持ちそうだったからではなく、ちょっと見ないくらいのイケメンだったからだ。
涼し気な目元や通った鼻筋は一見冷酷そうに見えるけど、
「じゃあ、カウンターいいですか」
と言って微笑むと、途端に目が細くなり暖かさと可愛らしさが見え隠れする。
「何になさいます?アルコールも、ソフトドリンクもありますよ。お食事もできますけど?」と彩女さんが言う。
カフェだと言い張っている割にすぐお酒を勧めちゃう彩女さん。
「彩女さーん、私もお腹すいた!今日ル スリジエで食べられると思ったから朝も昼も控えめだったの!」
イケメンにばかり優しい彩女さんにヤキモチを妬いてワザと甘えてみる。
「はいはい。クリームコロッケあるわよ。貴女好きでしょ?」
「食べる!!彩女さんが作ったコロッケならありったけ食べられると思う!」
「止めときなさい。失恋してやけ食いして太ったらバカバカしいわよ。」
「確かに。」
二人の会話をイケメンはニコニコしながら聞いている。
「じゃあ、僕もそのコロッケ分けて頂いてもいいですか?」
ほう、イケメンでもコロッケ食べるんだ。いや食べるよね、そりゃ。
二人でコロッケをツマミに、水割りを頼んだ。
見た目と違って親しみやすいイケメンと彩女さんと私はいつの間にか3人で呑むことになっていた。彩女さんはいつもの気まぐれで開けたばかりのお店の看板を仕舞ってしまう。
「え?いいんですか?」と驚くイケメンに
「いいの、いいの。今日は占いが休みの予定だったからお客も少ないのよ。うちは美人占い師でもってるようなものだから!」
「大げさ!!」
彩女さんの発言にお酒を吹き出しそうになる「占い師」の私。
「占い?ここ占いができるんですか?」
「そうよ!お客さんも占ってみる?この子が占えばピタリと当たるわよ。」
「いや、僕はあんまり興味なくて」
まあ、これほどのイケメンならあんまり悩みもないんだろうけど。モテすぎて困るくらいかな?
でも。ちょっと気になる色が視えた私はつい聞いてみてしまった。
「貴方、最近ご家族の誰か病気になられてない?えっと、男性の高齢者の方だと思うけど。」
イケメンはびっくりしたように私の顔をまじまじと見た。
「…なんで?」
「ん?えーっと企業秘密。」
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