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視るんじゃなかった
イケメンさんの本来の深い青緑の色に不安と心配の色が纏わり付き。
温かくて優しい男性の柔らかい糸のような色が肩のあたりに視える。
「…あー、ごめん。にわかには信じられないけど。でも、少なくともそれは当たってるかな。」
「構いませんよ。そもそもね、誰しも周りに体調の悪い人の一人やふたり居るだろうし、それを言われたからって信じるとかもないですよ。」
「え?じゃあ当てずっぽうだったってこと?」
「判断はそれぞれにおまかせします。」
もともとこの人は「お客」ではない。ほんの少し袖が触れ合っただけの人。
「名前、聞いてもいい?占い師さん。僕はこういうものです。」
イケメンさんは名刺を出してきた。会社名と名前を見て驚いた。
『ムーンリットホテルグループ 副総支配人 天夜 冴月』
「…AGM(副総支配人)ですか。」
頭が痛い。
「まあ、来週には副が取れるけどね。」
まずい相手かもしれない。本来私などがお目にかかれる人ではない。
ムーンリットグループは運輸業、ホテル業、ケータリング、不動産業など様々な業種を手掛けている大企業。何を隠そう、私の旅行会社もこのムーンリットグループの一つだ。
ムーンリットホテルグループはその中でも主要な部門で。この若さでの総支配人(GM)への就任。
そしてその名前。
創業者一族の「天夜」の名字に後継者候補にだけ与えられるという「月」のつく名前。
限りなくトップに近い位置にいる男の好奇心と私の心を探るような目をそらしたくて仕方がなかった。
でも天夜冴月は私を見つめ続けたし、私は縫い付けられたように目を逸らせなかった。
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