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そう言ってまた早足で歩き出すのを、追いかける。その歩き方は何かに苛立っている様だ。高校三年になって、進路指導が始まると友貴は不機嫌になったり、考え込む事が多くなった。
「何をそんなに怒ってるのよ」
「……ここ、滑るよ」
足元には黄色い絨毯が広がり、踏みつけられた銀杏の匂いがした。ローファーなのに器用に銀杏を避けながら歩く友貴と、スニーカーなのに危うく滑りそうな万智は、見た目も中身も似てない二人だった。
「ねえ、速いって」
「……もうすぐ」
友貴は迷う事なく目的地に進んでいるらしい。銀杏並木を進むと、左手に鳥居が見えて来た。
「神社?」
「うん」
友貴はちらりと私の顔を見た。何か言いたげな顔は真っ赤なマフラーに隠れてしまった。
「こっち」
友貴は鳥居の前で一礼して境内に踏み入れた。
「……わかったよ」
私も友貴に倣い、一礼して鳥居をくぐった。手水舎の前で友貴が手招きする。
「水、冷たくない?」
「……冷たい」
柄杓で水を掬い、左手から右手、口へと清める友貴の美しい所作につい見惚れてしまう。
「万智も」
友貴から渡された柄杓で手を清める。
「冷たっ」
「はい」
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