プロローグ

1/2
114人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ

プロローグ

 エアコンの冷たい風が、教室をぐるぐると巡っている。  頬杖をつく花村(はなむら)(たける)の長い前髪が、気だるげに浮き上がる。  こんな空間、ただでさえ息が詰まるのだから、早いところ秋が来て窓を開けられたらいいのに。  まだまだ夏の気配が色濃い九月は、一年の中でも特に煩わしい。  高校二年、C組。このクラスの一員になって半年が経つが、未だに自分の属する場所だという感覚が尊にはなかった。  同級生たちと一定の距離があるのは、昨日や今日始まったことではない。  頑なに関わりを拒んでいるわけではないが、積極的にそうする必要性も感じないのだ。  遅刻は常習犯、授業はしょっちゅうサボる。  そんな尊にクラスメイトたちだって、わざわざ近寄ってはこない。  よく話すのは、中学の頃からつるんでいるケンスケとナベだけ。  それで何も問題はなかったのに。  ここ最近は憂鬱な授業に出席してまで、クラスメイトたちの観察を余儀なくされている。  イレギュラーは全て、ほぼ強制的に参加させられたゲームのせいだ。  教師の目を盗んでスマートフォンを操作し、すぐさま教室内を見渡す。  視線の先は、特定の生徒数名。  だが今日も、何の手がかりも得られない。  消えそうなほど小さくなった飴玉を転がして、尊は小さく舌を打った。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!