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帰省
「吉崎君!」
浴衣姿の智花が大きく手を振る。
帰省して、花火大会で久々のデート。
僕たちは夜店を楽しんだ。
彼女は袂にハンカチを入れていて、僕は「祭りの時は浴衣姿の客にも注意だな。この手口で盗まれるかも」と頭の中にメモする。
花火を待つ間、僕はたくさん話した。内定のこと、卒論のこと、万引き犯を捕まえた時のこと。
君の恋人がどれだけいい男か。
「すごい! 吉崎君は自慢の彼氏だよ」
そんな言葉を期待して。
「吉崎君、変わったね」
「え?」
彼女の実家前まで送り届けて、完璧な対応をしたのに。
智花の表情は暗かった。
「前はそんな目で私を見たりしなかった。もっと私の話を聞いてくれた」
「智花? 何言ってんだ」
「LINEでも、自分のことばっかり。
私、教員二次試験が終わったって言ったよね? お疲れとか、どうだったとか、話すことあるでしょう?」
「あ……試験終わったんだっけ」
智花はさっ、と顔色を変えた。
「……もういい」
玄関のドアをバン! と閉めて、彼女は去った。
呼び止める暇もなかった。
実家に帰り、御礼のお菓子を食べながら、何度も夏祭りのことを思い返した。
どう考えても僕が正しい。智花は馬鹿だ。
ああ、そう言ってやればよかった。
だが、智花にLINEを送っても未読のまま。
憂さ晴らしにネットをあさり、女優の不倫記事にコメントした。
「旦那さんかわいそう。男の価値がわかってない女多すぎ。
これは後で後悔するパターン。アホだな」
すぐに5個、6個と「いいね!」がついた。
ほら、やっぱり。
僕は正しい。
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